読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ラノベとゲーム制作かもしれないブログ

オタクが最近読んだ見たラノベアニメ作るゲームの話を書きます。

p0p

 

 

「これはなんなんだよ、おい」
 若干の呆れ、そして、ふざんけなよと怒気を孕ませた言葉を出す。
地に倒れ、上体を起こしている俺が抱えているのは一人の裸である少女。
その少女こそが、俺の悩みの種であり、疑問の種であり、何より怒気の種であった。
少女は「んんぅ……」と艶めかしい声を出す。……俺は悪い事をしているのじゃないか、と思い、身を震わせる。しかし、俺は何もしていない。いや、正確にはしたかもしれないが、それが原因でこの少女が召喚されたとは考えたくもなかった。
「まいったもんだ。おいおい、学園初めの授業で、それも、運命式でこんな事なんて」
 運命式。それは精霊士官学校である、ここシュバリエ王立精霊学園の新規生が初めに行う授業のことである。
 具体的に何をするのか? と問われれば一言。精霊を召喚するだけ。
貴族だけが持っている魔力という未だ、謎が多い力と道具を使い、精霊を呼び、使役する。それが運命式だ。
そして、さらに言うと、その力を磨き、世界のためになるような人物を創りあげるのが、シュバリエ王立精霊学園の存在意義である。
「これが、こんなガキが俺と相性いいって……冗談だろ」
 運命式で呼ばれた精霊というのは例外なく、呼びだした術者と相性が最高に良い。
良いのではない。最高に良いのだ。そういう意味を込められて、運命の式と呼ばれている。
だから、ハウスベルグ家である俺――ギッシュ・ハウスベルグは嘆いた。
「お、おいギッシュ! 何だ、その娘!」
 後ろで声を荒げるのは俺の幼馴染であるリリン。
活発そうな赤色の髪は二つに括られていて、少し幼く見えるが体の一部は目を仰とさせる程、発達していた。そんな彼女は今、顔も紅くして俺を怒鳴りつけていた。
俺が怒鳴りたい気分であるのに関わらず。
「分かんねーよ。でも……」
 多分、俺の精霊なんだろう。多分。もう一層、学園のドッキリでした~なんて言って欲しい気分である。
「それにしても」良い顔で寝てやがる。
 金色の髪は爛々と光を反射している。今も小さな口からは少量の酸素の交換と少しの声しか出ていない。
「はやく離れろ! ギッシュ! こんの変態!」
「へ、変態って……なんだよ!」
「裸の女の子抱きかかえてよく言えるな! こんのエロ! ドエロ!」
「はぁ? 俺がこんなロリガキに欲情するかよ。俺はもっとこうダイナマイトな大人の人が好きなんだよ」
 リリンは体を手で覆い隠す。まるで、変態から体を守るかのように。
「ききききききき貴様、まさか、ケリー先生みたいな?!」
「ち、ちげぇわ! 大体そんなのお前に関係ないだろ?!」
「かかかかか関係ある! 貴様がしっかりしないと、困るのだ!」
「はぁ――――? 意味わっかんねー」
 真面目なリリンは俺に怒鳴り狂う。
その様子はまるで状況を読めていなかった。俺も読めていないのだが。
「何あんた」すぐ近くで声がした。
 どこかと思いキョロキョロ辺りを見回す。 周りにいるのは固まって俺とリリンのやり取りを見ている生徒たちだ。
「こっち。このクズ」下から声がした。
 それも罵倒だ。それも愛らしい声で。
ロリガキを見ると、じっとした目で俺を見ていた。
「何している……?」驚いた事にこのロリガキの瞳は紅蓮のように紅かった。
「介抱してやっていたのにその言い草とかやっぱクソガ――」
 俺が言いやめたのでない。物理的に口が閉ざされた……というよりは殴られた。
「クソガキと呼ばないで」
「こ、んの……」拳をぷるぷると震わせる。
「大体あんた誰なの。ていうか、ここどこ」疑問符すら出ない強気の言葉。
 ロリガキの瞳の光は依然強い。それが面白くなくて、つい俺は、
「へっ、その恰好で強がるなって」鼻で笑い見下す。
 すると、ロリガキは初めて自分の恰好を見る。それは紛れもない肌色で生まれた時の姿、そのものだ。それを自覚すると、頬が雪のように白かった肌が徐々に紅くなり、瞳と同等の色になると、
「死ね! 死ね! こんの死ね! はやく死ね!」
 無慈悲にも罵倒され、そして、俺は殴られた。普通に痛ぇ……。
ホント俺はなんでこうなってしまったんだ。
今日から俺は俺の目標の、夢を叶えるために頑張ろうと思っていたのに……。
なぜ、こうなってしまったのだと俺は考え始めた。

「みなさん! ご入学おめでとうございまーすっ!」
 そう言われたのはシュバリエ王立精霊学園の入学式を終え、クラスに集められた日のことである。先ほどまで、入学式のこともあって、紺色の制服の胸元には赤い花が添えられていた。
「このシュバリエ王立精霊学園に入学されたみなさんは知っていると思いますが、ここは未来の精霊遣いやそれに近しい事に役立たせるためにある学校なのですっ!」
 今、クラスの壇上でこの学校の在り方などを力一杯力説しているのは一人のメイド服を来ている女の子。……その異様な光景に周りを見ると、みんなが怪訝そうに首を傾げている。
「私は、そんなみなさんの力添えになれるよう学園長に仰せつかったここ、一年B組の担任である、ラルク・ミッシェルです。気軽にラルちゃんて呼んでくださいねっ!」
 ラルク先生、もとい、ラルちゃんがそう言うと、一人の生徒が手をあげる。
「今日のこれからの予定って何かあるんですか?」
 ラルちゃんはそれを聞き、目を爛々と輝かせた。
「いいですねぇ……、実にいいですねぇ……。先生っぽくて!」
 自身の失言をに気付いたのか、咳払いを一度、二度すると、
「そ、そうですね。皆さんにはまず、自己紹介をしてもらいましょうかねっ! その後、学校行事でもある大事な運命式があるので、それに参加してもうとして――はいっ!」
 言い終わると同時にズビシっとラルちゃんは右端の生徒を指をさす。
生徒は急で驚いたのか、背中を震わせて、反応していた。
「あなたから自己紹介をお願いしますっ」
 生徒はそれを聞くと少し面倒そうに立ち上がり、自身の名前、出身校、一言と述べていた。アイリン準学園というのはシュバリエ王立精霊学園の付属のようなものである。
一応、シュバリエ王立精霊学園は高等学校に位置するもので、必須でもないが、基本的に準学園からの進学で上がるのが通例だ。その際の準学園は基本的にどこでもいい。
そして、俺の目に一人の生徒が目に入る。
「私の名前はリリン・アッシュフォルケ。アイリン準学園の出身で係は飼育をやっていました。動物のことやそれ以外のことでも気軽に尋ねて下さい」
 特徴的な紅い髪に、規律良く着ている制服。そして、切れ長の厳しそうな目元。
どこか既視感に溢れた容姿だった。
「リリン・アッシュフォルケさんね。リリンちゃんでいいかな?」
 小動物のように首をコクコウさせる。……この人ホントに先生……だよな?
「え、えぇ。別に構いませんけど……」
「ホントですか?! ありがとうっ」
 そこでラルちゃんはまたしても、咳払いをし、
「じ、じぁ、次の人っ!」
 今度は後ろの人が立って、また同じような自己紹介をする。
それを何度も、何度も繰り返し、俺へとやってくる。
内心ドキマキしながらも、立ち上がり、平然とする。
「俺はギッシュ。ギッシュ・ハウスベルグ。出身校は……あー……ない。学園施設に通うのは初めてだ。まぁ、よろしく」
離し終わると、周りが何やら騒がしくなる。一瞬何事かと思ったが微妙に聞こえる話し声で察した。
「出身校ないって事は余程できる奴なのか」「多分コネだろ」「そうだよな」
 準学園を経由せずに学園に来るには筆記、実技の試験があり、それを高得点でパスする必要がある。これは困難であるために、素直に準学園を卒業し、学園へと進学した方がいい。
そして、もう一つ準学園を経由せずに学園へと進学する方法がある。
それはコネだ。もう少し長い言葉で言うならコネクションである。
こちらは作るのこそ難しいが、作ってしまえば入学は容易だ。無論、俺はコネ入学である。コネじゃない程の入学者は大体優秀すぎて、入学する時には噂がたっているのが普通だ。噂の匂いも煙も無い時点で俺がコネ入学だと察しているのだろう、クラスは。
「ギッシュ君! 君が学園長の言ってたギッシュ君なのね!」
 興奮気味にラルちゃんは尋ねる。俺はそれに圧倒されながらも、
「お、おう。多分そうだと思うけど……?」
「そうなのね、そうなのねっ! あなたには期待していますねっ!」
 何を期待している、という質問より、他の奴には期待していないのか、という疑問が頭を過った。そんな考えとは裏腹にラルちゃんはニコニコさせている。
 そんな会話をした後だからか、クラス内がまたざわつく。
「大した実力もないくせに」「聞いたかよ、学園長のオキニーだってよ」「ムカつく」
 心無い言葉が次々に刺さっていくが、俺の心はそんなのに負けない。
今まで、何度も言われ、そんなのは慣れた。澄まし顔をしたのがつまんなかったのか、より一層クラス内が賑やかになる。
 クラス全員の自己紹介が、やがて終わる。
そうすると、ラルちゃんは満足そうに口を開き、告げる。
「それじゃ、みなさんの事も知れたので、そろそろ運命式の方へと行きましょうか」
 そう言ってラルちゃんはクラス全員を引き連れて、廊下へ出ようとする。
クラスメイトからどこへ行くと尋ねられると、ラルちゃんは、
「校庭ですっ! 運命式は校庭で、もう準備をしているので」
 しかし、生徒たちは面倒そうにしている奴らばっかでラルちゃんは困っていた。
俺もその一人であるのだが。
「俺も行くとするか」重い腰をあげた、その時――
「ギッシュ。ギッシュ・ハウスベルグ」
 俺の名前が呼ばれた。呼んだ人物は、
「確か……リリンだっけか」俺の席横に突っ立っている人物を下から見上げて言う。
「その口ぶりだと憶えていないようだな……。まぁいい。歩きながら話そう」
 俺をわざわざ待ち、一緒に歩きながら行くとか、何か理由がありそうだ。
それにどこか見た事あるような……。
「それで、ギッシュ。キミはここから東の方にあるベルビア地区の貴族であるハウスベルグ家の嫡男でないか?」
 リリンは歩きながら、俺の心の底にある核心に触れた。
「……よく分かったな。田舎である上に、今では没落(ノービィス}となったのに」
 それを知って、彼女はキツく見える切れ長の目を優しい形に変え、答える。
「よく知ってるさ。キミが昔、女の子に泥団子をぶつけられ泣き、おもちゃをとられてはまた泣き、男の喧嘩に負けては泣き――」
「ちょ、ちょ、ちょっとストップ、ストップ! どうして知ってんだよ! そんな事!」
 リリンが言っていた事に全て思い当たる節があり、言葉を無理矢理遮ってみせた。
すると、リリンは可笑しそうに笑う。
「なんでってキミと私はいわゆる幼馴染だから……だろう?」
「え……ちょっと待て」指でこめかみを突く。
 すると、突然灰色だった世界に色がつくように、鮮明に、確かに、思い出した。
「リリン、今思い出したわ」
「まったくキミという奴は、その失礼さは昔から今も、変わっていないようだ」
 呆れたような言葉からは懐かしさと優しさが滲み出ていた。
「悪かったな……。にしても、リリンお前結構変わったな」
 どこが、とは言わないが強いて言うならば、主に胸。
「そうか?」自身の体を隅々まで見ている。
「まぁ、三年も会ってないんだしな。変わるだろ、お前も……俺も」
 それを聞いて「ふむ」と難しそうに考え込む。
「確かにギッシュは変わったな。口調だって違うし、体躯だってそんなに男らしくなかっただろう」ペタペタと俺の肌を制服越しから触るリリン。
「あぁ……まぁな。色々あったんだ」色々あったのだ。
「ふむ。それで、どうやってこの学園に入学したのだ? 言っては悪いがギッシュの頭と実技ではここの入試をパスすることは難しいだろう?」
「あぁ……。それな。普通にケリーのコネ使った」
 ケリー・シオドーラ。ここの学園長であり、偉大な精霊遣いである。
俺の父さんとここのクラスメイトらしく、それの関係で俺は知り合い、コネを使い、ここへと入学した。ケリーとリリンの両親も確か知り合いだったと思うし、リリンも人柄くらいは知っているだろう。
「ケリー先生のって貴様馬鹿か……」
 リリンは呆れたり、罵倒したりする時は「貴様」と使う癖がある。
だから、今リリンは、呆れているか怒りたいのか、どっちかなのだろう。
「まったく」
 呆れているようだ。
「いつからキミはそんな風に変わったんだ?」
「さぁ。いつからだろうな。――――お、着いたみたいだ」
 校庭に出ると、何十もの生徒がそれぞれの組の場所で待っている。
 俺たちも混ざろうとB組に合流した。
規律良く並んでもいないので、俺もテキトーに突っ立っている。
そうしていると、一人の先生と思わしき人物が声を張り上げた。おそらく、どこかの組の担任だろう。
「これから運命式を始める。それぞれの組に一つだけ魔方陣を組み込んであるので、それを担任の指示で使用し、始めること! 以上!」
 ラルちゃんはそれを聞くと、再び目の輝きを取り戻し、B組に指示を出す。
「はーい、みなさんっ! ではここの魔方陣に一人ずつ自己紹介した順に来てください!」
 なるほど。あの自己紹介には自己紹介以外の意味があったんだな。
ラルちゃんは案外考えているのかもしれない。……失礼な考えだけど。
 一番目の生徒が魔方陣の真ん中に立つ。そして、真ん中に置かれている石に手を差し出すと、自身の手をナイフで薄く切る。薄く切った個所から血が滴った。
置かれた石に血が塗られ、石は徐々に光り出す。淡く青い色だ。
「……すげぇ」意図せず声が漏れる。それほどまでに、神秘的であった。
 徐々に光った石は一瞬光らなくなったかと、思うと光が爆発したかのように辺りを照らした。あまりの眩しさに目を瞑る。
光の爆発が止まったかと思い、目を開けるとそこには先ほどまで運命式を行っていた生徒と一頭の馬が居た。
……目を凝らし、よく見ると馬ではなく、あれは精霊だ。
ユニコーンと言われる魔獣で、知能が高く、勇猛であって、かなり希少である。
それが精霊として召喚されたのだ。おそらく高名な貴族出なのだろう。
「あれはユニコーンだな」いつの間にか俺の隣に移動してきたリリンが呟く。
「さぞかし、高名な貴族様ってことでぇ」
「ふむ、確か、彼はリンカートン家の者だったはずだ。彼の一族は代々ユニコーンが精霊と聞いている」
 精霊というのはどうも血で遣い者を見極めているのか、代々同じ精霊が召喚される。
リリンの家――アッシュフォルケ家なら代々ゴーレムというように、リリンの精霊はおそらくゴーレムだろうな。
しかし、中には貴族の血も持たずに精霊遣いの資格を得る者もたまに居る。
彼らは、突如、精霊遣いとして覚醒したからか、貴族より強い精霊、魔力に恵まれているという。
「次はリリンの番だな。行って来いよ」
「うむ、そうだな。……ギッシュもご武運を」薄く笑い、俺の元から去って行く。
「ご武運って……俺は何と戦うんだよ」
 そんなのは決まっている。己自身である。
今回の運命式で俺の人生は間違いなく良い方にも悪い方にも変わるだろう。
俺の家であるハウスベルグ家は精霊がどんな奴になるか、一切分からない。
ランダムである。ゴーレムかもしれないし、ユニコーンかもしれない。
でも、俺はそんな精霊ではなく、もっと強い精霊が欲しい。
レッドドラゴンを代表としたドラゴン種やレッドオーガを代表とした鬼。
狙うはその精霊。俺には成さなきゃイケない目的があり、そのために学園に入学し、その為に俺は精霊を欲しているのだ。
「次ーっ! ギッシュ君!」
 ラルちゃんに呼ばれ、魔方陣へと近づく。
「大丈夫? やり方分かる?」
「問題ない。さっき見てたから」
「さすがっ!」跳ねるようにピョンピョン喜ぶラルちゃんを尻目に魔方陣へと入る。
 少しドキドキしてきた。この結果で何かも変わることは理解しているし、分かっている。
それでも尚、どこか未知への邂逅的なものに楽しさを感じてもいた。
震えだす右手にナイフを突き立て、薄く手首を切る。
切った手首から血が落ち、もう何人もの血を吸ってきたであろう石に血が垂れた。
その瞬間、光が爆発し、視界が光に覆われ――

『やっと会えた』

 どこか、から声が聞こえた。それは聞いたこともない声だ。
そして、光が止み、確認しようと目を開け、歩き出そうとすると、
「うおっ……!」急に歩き出したのがダメだったのが、転んでしまう。
 情況を確認しようと、目の前を見ると……そこには一人の少女が居た。

「ギッシュ君、その娘は……」ラルちゃんの声で俺は意識を覚醒させた。
 殴られた衝撃と現実逃避したいという気持ちが重なり、長い間考え込んでしまっていたみたいだ。今はもう、意識は繋がっている。
「……ったく、なんだってんだ」ロリガキの上から俺は退く。
 すると、ロリガキは今更になって、裸なのが恥ずかしのか、手を最大限に使ってなるべく素肌を見られまいと隠している。
俺はそんなロリガキに自身の上着である制服をかける。俺が優しいとか可哀想だから、とかではなく、単に目に毒だと思ったからだ。
「……ぐっ」羽織らせるとロリガキは悔しそうに唇を曲げた。
「ラルちゃん、このロリガキってやっぱ……俺の精霊だよね?」
 尋ねると、困ったような顔を浮かべ、ラルちゃんは答える。
「え、えーと……契約できているのなら、どこかに契約痕があるはずなんですけど」
「契約痕は……ないな」
 手の甲に平、探してもない。となると……。
「ギギギッシュ! 貴様! 何故服を脱いでいる!?」
 俺は契約痕を探そうと制服に手をかけていた。どうしても、このロリガキを精霊と認めたくないからだ。
「昔、一緒に風呂とか入ってたんだし、それくらいで喚くなよ」
 甲高い声を出しているリリンを宥めようとしたが、それは逆効果だったようだ。
「だ、黙れ! 今、そんな話するんでない!」
 リリンが喚く間に、体に契約痕があるか、しっかり確かめた。
「やっぱり、ないな……。ていうことは、契約してない?」
「んー、それは無いと思うんですけど……。ギッシュ君の契約時に出てきてましたし」
「と言っても、そもそも精霊が人ってどういうことだよ」
「そうですね、それには私も驚いてます……」
 どうやらラルちゃんも人間型の精霊は初めて見たのか驚いていた。
使えないな、と心で毒つく。
「お前ら! 私を放置するな! このクズ! ばーかばーか! あほぉ!」
 魔方陣中央で未だに、体を丸めて、毛布のように俺の制服を使っているロリガキ。
こいつは精霊なのか? それとも人間なのか?
「おい、どうした。B組」そこに来たのは先ほど運命式の全体指示を行った先生。
「すいません。ヴェロニカ先生」
 ヴェロニカと呼ばれた女性は、見たところ三十手前であり、眼鏡をかけているがその奥の瞳はかなり厳しそうなものだった。
ラルク先生……困りますね。運命式は伝統あるもの。問題なんて起こさないで頂きたいものです」
「は、はい。すいません……」ラルちゃんはしゅんと謝った。……悪くなんてないのに。
「俺が原因だからラルちゃんを責めないで欲しい」
 気が付いたらいつの間にか、ヴェロニカにそう言っていた。
「ほお……。お前の名を聞かせてもらおうか」
「ギッシュ・ハウスベルグ」
「そうか。お前がギッシュ・ハウスベルグか」何かを察した顔で言う。
「それが何かあるのか?」
ハウスベルグ、お前は運命式が終わり次第学園長室に行くように。あと、教師には敬語で接しろ」
 ヴェロニカは踵を返していく。ラルちゃんは、ホッとしたのか胸を撫で下ろしている。
「だからぁああ、いい加減私に気付けぇええええ!」
 ロリガキは立ち上がり、俺に向けて拳を振るう。
 それに、反応できずに俺は、小さい体のどこにそんな力があるんだ? と言いたいくらい吹っ飛ばされた。吹っ飛ばされる間にも、リリンの罵倒は聞こえていた。俺は今日、本当に不幸だと思う。

「それで、コイツは俺の精霊なのか、それとも、人間なのか?」
 運命式が終わると、俺たちはヴェロニカに言われた通り、学園長室に来ていた。
俺たちと言うのも人数はたった二人、俺とロリガキのみ。
「なるほどねぇ」
 無駄にデカい机に座るのは一人の女性。名前は ケリー・シオドーラ。
彼女こそシュバリエ王立精霊学園の学園長である。
精霊遣いとしての腕は超一級。類を見ない才能である、と噂で聞いたことがある。
今はその妖艶な口に煙草を咥えていて、なんだかエロい。
「私がクズの精霊なわけないでしょ、馬鹿じゃないの」
「クズだぁ?」
「何よ」
「何だぁ?」
 俺とロリガキはお互い睨み合う。よく見ると、こいつの目綺麗だなと思うが、今はそれどころではない。
「安心しなさいな。その子はあなたの精霊よ、ギーくん」
 ギーくんとは俺のことである。俺の愛称であり、ケリーからはそう言われていた。
「安心って、嘘だろ?! 目覚めよ(アウェイク)も眠れ(スケイト)も効かないんだけど。これっておかしくねないか?」
 目覚めよ(アウェイク)は精霊遣いが精霊を召喚するための魔法。
反対に、眠れ(スケイト)は精霊を自身の心に閉じ込めておく魔法。
目覚めよ(アウェイク)は精霊を使って何かをする際に使う呪文であって、眠れ(スケイト)は逆に精霊で何かし終えた後に使用し、自身の心に入れておく。日常生活でも、精霊というのはハッキリ言って面積がかさばる。だから、眠れ(スケイト)を使って、普段は心に入れておくのだ。
それがアルカには一切通用しないのだ。
本来ならば、どちらの魔法も契約した時点で使えるはずなのだが。
「まだ契約しきれてないんじゃない? 契約痕もないんでしょ?」
 ケリーはそう言った。
「なんだ、それ。意味分かんねー精霊だな、本当に」
 すると、アルカが横に居る俺を睨みつけながら、
「はぁあ? あんた、アタシの凄さが分からないって精霊遣いの才能ないからやめちまえ」
「どこが凄いってんだよ! ただのロリガキじゃねぇか! ロリコン特攻しか持っていないお前がどこで、どう役立つって言うんですかぁ?」
 売り言葉に買い言葉。どこまでも続く水平線のようであった。
「何よ」
「何だぁ?」
 お互い睨み合う俺たち。やっぱり、ロリガキの瞳は火が灯っているように綺麗であった。
「あっははは、君たちは喧嘩するために来たのかい?」
 今まで傍観を決めていたケリー先生が腹を抱えながら問う。
「呼んだのはケリーの方だろ。それで、何の用だよ」
「あら、学園長として保護者として、今日入学した生徒の感想を聞いちゃダメかしら?」
「そんなことかよ。……なら、別にこれ以外は問題ねぇよ」
 横に居るロリガキに視線を配る。
「困っているみたいね」含みを持たせてケリーは笑った。
「なんとかしてくれ」
「ちなみにその何とかって具体的には?」
「運命式のやり直しとか?」できるならやって頂きたい。
「それは無理。あなたも知ってるでしょ。運命式に用いる石で希少で高価。一人のために、それを用意するのなんて無理よ」強調するためか、二度も無理と言われる。
「ちょっと、アンタ。さっきから何なの」
 まやしても、疑問符すら思い浮かない程の強い口調。
「いや……何って。交渉してんだよ、交渉。お分かりで? 姫殿下」
「はぁ? なにそれ。ぜんぜっん意味分かんないし」
 ふぅー、とケリーが息を吹きかける。煙は俺とロリガキのところまで来て霧散する。
めっちゃ煙い。
「少しは落ち着きなよ。……で、そこのお嬢さんは何て言うんだ?」
「ロリガキ」
「ちょ! ふざけんじゃないわよ! 私には……私には…………」
 名前を言うかと思ったが、ロリガキは急に黙り込む。難しい顔をして。
「名前が思い出せないのかい?」
 ロリガキはゆっくりと首を引き、肯定する。
「それじゃ、ギーくん。お前が名前を付けてあげな」
「はぁ? なんで、俺が?」「そ、そうよ! なんで、こんなクズなんかに!」
 ケリーは面倒くさそうな顔をして、また煙を吹く。
「ギーくん師匠の言う事が聞けないのかい? それにお嬢さんもこのままだと、公式にロリガキていう名前になるけど、いいのね?」
「「ぐっ!」」俺とロリガキの声が重なる。
 この学校に入学できたのはケリーのおかげだし、それ以外にもケリーからはたくさんの事を教えてもらった恩がある。
「分かったよ。付けるよ、付ければいいんだろ」
「いいわ! 付けられてあげるわ!」
 そして、俺はロリガキ――少女と向かい合う。
髪は金色で瞳は紅く、顔立ちは幼い。……どんな名前がいいのだろか。
いっそのことロリガキもありなのでは……と思ったところで、少女は睨みを聞かせる。
どうやら俺の考えは読まれてそうだ。なら、
「アルカ」ポツリと呟いた。気が付いたら、口から勝手に出て行った感じ。
「アルカ……か。お嬢さんはどう思う?」ケリーは名前を呼び、少女に問う。
「アルカ……アルカ……。いいわ! それでいいわよ」
 どうやらロリガキの名前がアルカに変わったらしい。
「アルカ……」どこか思うところあるのか、愛おしそうに名前を復唱していた。
 可愛い顔できるなら、そうすればいいのにな。今のアルカは年相応の可愛い顔であった。
「それで、名前も決まったことだし、あなたには依頼を頼まれてもらうわよ?」
 あぁ、なるほど。俺はこのために呼ばれたのかと察した。

 シュバリエ王立精霊学園はグラスターという街に建てられている。
グラスターは、四季折々とハッキリした季節が特徴的で、住んでいる人種も多岐に渡る。
商店街まで出ると、かなりの人々が市場を盛り上げていた。
俺は三年前から地方からこの街に引っ越しているが、今でもその盛り上がりを見ると、どこか余所余所しくなってしまう。慣れていないということだ。
そんな商店街を抜けると、街中に流れる河の上に架けられている橋を渡る。
「猫を探せたって……見つかるのかよ」
 あれから俺はというと、ケリーからあることを言われ、それを遂行しようとしていた。
あることとは、

「猫を見つけてほしいの」
「猫ぉ?!」
「そう、にゃーごって鳴く」あまり似ていない猫真似は置いて、
「その依頼ってまさか」
「そう、あなたの目的のために必要な事よ」
 入学初日からあるのかよ。どんだけ節操ないのだか。
「ちゃんとアルカちゃんも連れて行くのよ」
「はぁ?」俺と同時にアルカが「なんで、アタシが!」と抗議する。
「精霊とその術者はパートナーなのよ。一緒なのは当たり前じゃない」
「分かった」渋々俺は了承した。
「ちょ、ちょっとアタシはいいって言って無いじゃない!」
「アルカちゃん、外の世界を見たくない? ここグラスターは良いとこだし、見てきたらいいなってお姉さんは思うの」ケリーは笑顔でそう伝える。
「そ、そこまで言うなら……。分かったわ」消え入るような小さな声でアルカも了承した。

 それで、俺たちはあれからすぐに猫を探しているのだ。
学園の方はケリーから連絡を入れてくれるということなので、問題はないだろう。
それにしても……と目線をアルカに合わせると、
「つっかれたよぉ、もう歩きたくないぃいいい……なんで、アタシ歩いてんのぉおお」
 愚痴っていた。盛大にまで愚痴っていた。
「おら、ロリガキ行くぞ」
「何よ。置いて行けばいいでしょ」
「そうなったら面倒だろ」
「何が?」きょとんとした顔でアルカは尋ねた。
「いや、探すのが」
 すると、何が可笑しかったのかアルカは腹を抱えて笑い込む。
「何が可笑しいんだよ」
「あはっは……だって、あんたさっきまでアタシどうでもいい、みたいな感じだったじゃない。それなのに、あっはは」
「お前なぁ」
 陽気に笑うアルカを一発叩こうか悩んだ時、不意に彼女は指を指した。
「あれ食べたい」
 指を指した先には一つの屋台があった。
「クレープ屋か」
 はぁ、と大きく溜息をついた。
「少し休憩するだけだからな」
 そして、歩き出した。クレープ屋はどうやら馬車で繋がれた小屋みたいな小さい建物でやっているみたいだが、意外にも内装はしっかりしている。
クレープ屋の父さんは俺を見ると、声をかけてくれた。
「らっしゃい!」
「クレープ二つもらいたいんだけど」
 俺の言葉が足りなかったのか、父さんはメニューを差し出した。
「どれにしまっせ?」
「あー……じゃ、イチゴと――「デラックス」」俺の声にアルカの声が重なる。
 いつの間に、ここまで来ていやがった。なんて、現金な奴。
「イチゴとデラックスで?」
「はぁ、まぁ、それで」諦めた俺は素直に金を差し出す。
「まいどっ」お釣りとクレープを俺に差し出す。
 デラックスぽい方をアルカに渡し、俺たちは橋の縁に座る。
「ねぇ、ここで食べていいの」
「いいんだよ。別に。誰もそんなんじゃ不幸にはならねーって」
 アルカはそれを聞いて「変なの」と言い、クレープを小さく一齧りした。
「ん~~っ! 美味しい!」
「そうか」
 短く返した。アルカはそれが面白くないのか、唇を固くしている。
「美味しいって褒めてんだからもっと喜びなさいよ」
「喜ぶのは作った父さんだけだろ……。それに、そう言うなら奢った俺に礼を言え」
「わ、分かってるわよ……。あ、ありがとう……」
 しぶしぶ了承したアルカは消え入るような声で呟いた。
「こ、これで満足?!」
「あぁ、満足満足。それに満腹だ」
「もっと食べたい」
 クレープを食べきり、戯言を言うアルカの額に指を合わせ弾く。
「痛っぁ~~」痛そうに額を抑えている。
「猫探ししなきゃだろ」
「分かってるわよ……ったく」
 橋を渡りきり、近くの公園に入る。
この公園には多くの野良猫が住んでいるため、もしかしたら居るんじゃないのではという俺の考えだ。期待通り公園にはたくさんの野良猫が居る。
 アルカは猫を見ると、目を爛々と輝かせた。
「かっわいい~!」声もいつもより高く感じる。
「猫好きなのか?」
「見たのは初めてだけどね」俺と話す時は、いつも通りであった。
 しかし、猫を可愛がるたアルカは幼い子供のように見える。
「お前って……やっぱ精霊なのか?」
「何それ」アルカは近くの猫を抱き抱える。
「どうしても見えないんだよ。精霊には。普通の子にしか、俺には見えない」
「ごろごろにゃーん」猫を抱き抱えて、猫と会話するようにアルカは鳴き真似した。
「おい。真面目に――「それって必要なこと?」」ピタっと言葉を止めてしまう。
「それって必要なことなの?」
 アルカは二度問いた。それは必要なことなのかと。
「……俺には必要だ。お前とどういう風に距離とればいいのか。分からない。リリンのようにすればいいのか。ケリーのようにすればいいのか。俺にはそれが分からないんだ」
 すると、飽きたのかアルカは猫を降ろした。
「……アタシは精霊よ。それも欠陥品の精霊。これで満足?」
「欠陥品?」
 まだこの話を続けるのか、とアルカは一瞬嫌そうな顔をした。
「精霊ってなんだと、アンタは思ってるの?」
 未だに謎の多い精霊……ただでさえ不勉強な俺はアルカを満足させる答えを持ってなどいなかった。
「精霊ってのは生まれた時から精霊である先天性と、最初は精霊じゃなかった後天性の二通り存在するのよ。前者は物に宿っている精霊などがいい例ね。後者はドラゴンなどが、そうね」
 生まれた時から精霊なのとそうじゃないのには大きな違いがある。それは、
「アタシの場合は多分前者」
「多分?」頼りないその解答に眉を吊り上げた。
「アタシには記憶が無いのよ。これぽっちも」
 記憶が無いこと。精霊として初めて意識を持つため、物として存在していた時の記憶など持ちえない。
「俺に召喚された時が、生まれたなら、それが普通だろ」
「アタシも最初はそう思ったわ。でも違うと分かった」
 それが自身を欠陥品と言わせる所以なのか、と俺は生唾を一つ飲んだ。
「アタシの頭の中に入っていたのは、精霊だという自身の証明だけ。もしあの時、アタシという個が生まれたなら、きっと頭の中に何かしらあるのよ。それこそ自身が、どのようにして生まれた、とか」
「つまり、お前は記憶も無ければ自分がどのようにして生まれたのかも分からないのか?それで、自分のことを欠陥品って言ったのか?」
「そうよ」
 その一言にどれだけの想いが込められているのだろう。測りしえないその想いに俺は唇を強く噛んだ。
「なら、探せばいいじゃねぇか。自分が何者かなんて、自分が決めることだ。」
「簡単に言わないで」
「簡単じゃないのは分かっている。だからって、何もしないないのは違うだろ。そんなの自分でも分かってんだろ。だから、今日、こうして着いて来たんだろ」
 それでも、と俺は話を続けた。
「もし、一人じゃダメだって言うんなら、ちょっとくらいは手伝ってやる。猫を探すくらいには」先ほど抱き抱えていた猫とは違う猫を抱きかかえる。
「何、カッコつけてんだか、でも……ありがと……」
 俺が抱きかかえた猫の喉を撫でながら、少女は薄くだけど、笑う。
今更ながら、恥ずかしくなる。
でも、不思議と言ったことを後悔などはしなかった。

 結局、その日、俺たちは猫を見つけることができず学校に戻った。
学校に戻ると、もう授業は全て終わっていて、ラルちゃんが教務室で出迎えてくれる。
ラルちゃんは学園長の勝手に少し困っていたが、それでも納得している様子であった。
次からは、私にも連絡くださいと釘を指されたが。
「それで、本日からはみなさんには寮に泊まってもらんですけど、それは大丈夫ですか?」
 それに「大丈夫」と首を縦に振ると、ラルちゃんは嬉しそうに説明を続ける。
「えーと、じゃあ、部屋なんですけどここになります」
 机をガチャガチャして、手に入れた鍵を俺に手渡しする。
俺は鍵を受け取るが、ある疑問が頭を過った。
「えっと、コイツの分は?」アルカを指差す。
「ないですよ」ものすっごい笑顔でラルちゃんは言いきった。
「それじゃ、どうすれば……?」
「一緒に泊まってもらうしかないですね」
 いやいや、と手を振る。それはありえないって。
「別にいいじゃない。何気にしてんのよ」
 アルカはそう言うが気にする。こちらとら思春期真っ盛りなのだ。
例え、人間じゃないと言われようが、幼女だろうか、女と付けば意識してしまう悲しい生き物なんだ。
「そ、そうだ。俺は自宅に帰る。それで、そ部屋にはアルカだけ居てもらえばいい」
「校則で寮に泊まってもらいます」笑顔でまたしても告げるラルちゃん。
 大きく溜息をつき、俺は決心する。
「分かったよ。もう。別に暮らすだけ、だし」
「分かってくれて何よりですっ!」
 ラルちゃんの笑顔が今だけはムカついて仕方なかった。
 教務室を出ると、もう日は落ち、夜が訪れている。
薄暗い街灯だけを頼りに、学校に隣接されている寮を目指し歩く。
隣で歩くのはアルカ。
その表情は無表情だった。ただ俺に付いてくるだけ。
 次第に見えてくる寮。
生徒数がそもそも、そこまで多くないので思ったより小さな建物だ。
中に入ると、ロビーのようなものがあり、そこには簡単な地図があって、自分の部屋を確認する。……どうやら、三階のようだ。
他には一階には食堂があるみたいで、今は夕食時もあって、そっちの方から声が絶え間なく聞こえてくる。
「ロリガキも多分、夕食食えるから好きな時に食っとけよ」
「ロリガキ言うなし、クズ」
「お前もクズ言うな」
 一階から三階は階段を渡って移動する。向かおうとした時、不意に声をかけられた。
「ギッシュじゃないか」
「リリン」
 声をかけてきたのはリリンで、恰好はラフな感じであった。
そりゃ、もう下校したしな。制服なわけないか。
「初日からサボりとは貴様も、本当変わらないな」
「サボってねーよ」
「む? そうなのか? まぁいい。その辺の話もしたいし、夕食なんかどうだ?」
 いや、と否定しようとした時、どこからか「ぐぅ~」という音が聞こえる。
俺じゃないし、聞こえた方角的にリリンでもない。
となると……、
「……ぐっ」アルカが顔を紅くし、俯いていた。
 リリンも触れてい良いのか分からず、苦笑する。
「俺も腹減ったし、一緒に行くか」
 アルカにそう言い、ゆっくりと顎を引いて肯定する。
食堂はどうやら三食あるメニューの中から選んで、それをおばちゃんに言ってもらうらしい。俺のそんな今日のメニューはハンバーグにしておいた。
アルカはピザで、リリンはそばでみんな違ったメニューである。
三人まとまって食べたいから、食堂で三席空いてる席に腰を落ち着かせた。
俺と対面するように、左にリリン、右にアルカが座る。
「頂きます」
 リリンだけそう言い、俺たちは食べようと箸をつついた――
「ギッシュに……そのお嬢さん、ちゃんと頂きますくらい言ったらどうだ?」
 少し面倒に思いながらも、俺は「頂きます」と声にした。
アルカも若干戸惑いながらも、そうする。
「それで、ギッシュ。結局その子は何なんだ?」
 リリンはそばつゆに麺を浸しながら尋ね寝る。
「形式上は俺の精霊」ハンバーグを口に一口運ぶ。
「精霊って……こんなお嬢さんが?」
 驚いたのか、飯を食べているのを忘れているように話に熱が入っている。
「そうだな」
「アタシはお嬢さんじゃばい」
 ピザを一切れ千切り、口に放り込む。
「アルカ。名前はアルカ」
 リリンにそう言う。
「すまなかった。アルカ」
「別にいい」
 アルカの顔は若干紅くなっていたのを俺は見逃さない。人間と精霊と言えど、同性だ。
何か、通ずるものがあるのだろうか。
「それで、ギッシュ。キミは今日何してたんだ?」
「あぁ。それな。お手伝いだよ」
「お手伝い?」訝し気にリリンは俺を見つめる。
「国のお手伝いだ。依頼者が国に頼み、それの一部がケリーを仲介して、俺に来るってわけ。……別に危険なことはなく、猫を探してくれ、レベルさ。どれも」
「また、どうしてそんなこと」
 麺を粗食し、飲み込んでからリリンは尋ねた。
「三年前のことくらい知ってるだろ?」
「あぁ、なるほど」
 俺が多くを語らなくてもリリンは分かったのように頷いた。
「すまない」
「別にどうってことない。ケリーのおかげで俺は今も生きているし」
 アルカだけは話が理解できていないからか、不満そうな顔をしていた。
彼女にはない過去――記憶の話だけに新鮮なだけかもしれない。
「そうか。でも、よかった。私は私で、キミのことを心配していたんだ」
「それは……悪かったな」
 リリンは首を振って否定する。
「違うだろ。そこは、ありがとう、だ」
 俺は驚きつつも、素直に言葉を返すことができた。ありがとう、と。

 あれからリリンとは別れ、今俺とアルカは休むためにも、部屋の前まで来ていた。
ポッケに閉まっていた鍵を取り出し、それを鍵穴へと差し込むと難なく開く。
玄関につけてあるリモコンのスイッチを押し、明かりをつけると薄く部屋が灯った。
見た感じ部屋は全然狭くなく、二人どころか三人は泊まれそうだ。
「ここがアタシの家~?」テンションをあげて、俺を押し退け入室。
 あと、一応名義は俺の部屋だからな。
「あ、おい。ベッドは俺のだぞ」
「えぇー。嫌よ」
 気が付いたらベッドでボフンボフンと飛び跳ねている。
俺がやろうと思っていたのに。
「俺はどこで寝ろって言うんだよ。このロリガキ」
「そこのソファーで寝れば」
 疑問符すら出ない強気な口調にも聞き慣れた。
「なんで、俺が!」
「別にいいじゃない。それくらい」
「いいなら、お前が」
「あー、はいはい」
 聞く耳持たずといった形でアルカは枕を自身の顔に押し付ける。
はぁと溜息をつきそうになり、気付く。溜息ばっかついてるような?
「今日だけだからな」
 仕方なくソファーで寝転がる。
一人用でないので、寝転がっても案外スペースができる。
しかし、これはソファーであって、ベッドではない。なので、若干違和感はある。
「もう寝るぞ」先ほど使ったリモコンを再度押し、薄明るい消灯を落とす。
 証明が落ちた部屋は、所々電化製品が光っているだけで、他に明かりはない。
今日は色々なことがあり、疲れた。
しかし、なぜだろうか。
まったく眠れない。それはアルカがいるから?
違う。そうじゃない。多分それはきっと――
「ねぇ」
 アルカの声がする。
「寝たの?」
 今度はしっかりと疑問符が思い浮かぶように微妙に声音を上げていた。
「寝たかもな」
「起きてるじゃない」
「お前はなんだ、寂しくて寝れないのか?」
「寂しい? 誰が?」
 どうやら違うらしい。
「あっ、そ。おやすみ」
「ちょっと待ちなさいよ」
「んだよ。まだ、何か?」
「あんたさっき食堂で言ってたじゃない。国の依頼とか、なんとか」
「言ったな」リリンと話した時のあれか、と思い出すように答える。
「あんたって困ってる人が居るから助ける……ていう人間じゃないわよね?」
「ひどい言い様だけど、その通りだな」
 俺はそんな人間で間違いない。
決して正義の味方でも、ヒーローでもない。
俺が救えるのなんて、たかだか知れている。
 たくさんの人を救おうとすれば、するほど俺という人間の手の平から零れ落ちるように救われない人間ばかりになる。救おうとしたのに、救えない。
 そんな矛盾に似た行動を恐れ、俺は自分に可能な人数と人しか救わないようにしてる。
「じゃ、やっぱり打算てこと?」
「否定しない。俺は俺の目的のために人を助けてる。でも、救いたくて、救っている面もある。結局のところ俺にもよく分かっていないんだ」
「そう。……アンタ精霊のこと聞いたわよね?」
「聞いたな」
「アタシからも聞いていい?」
 それを引き合いに出されたら断ることもできず、無言の了承をした。
「三年前の出来事って何?」
 背中がびくんっと震える。
「なんで、また、そんなことを」
「気になったからよ。それに露骨に隠されたら気持ちよくないし」
「隠す理由があったとしても?」
「あったとしても、それはアタシには関係ないわ」
 いい性格をしているようで。
「……まぁ、いいだろ。今日は祝いある入学式っただ。お前にその記念で話してやる。
 俺の過去を――な」

「やぁっ!」
 気合の入った声と一つの剣戟音が鳴る。
一人は今から――三年前の俺ギッシュ・ハウスベルグ。そして、対峙しているのは俺の父親であるミクス・ハウスベルグである。
朝方、家の庭で父さんから、鍛錬を受けていた。
俺たちが手にしているのは剣であり、その時は丁度、剣の稽古をしていた時だ。
「いやー、ギッシュはやっぱり強いな。その歳なら間違いなくトップだね」
 額にできた汗を拭う父さんを俺は見て、不敵に笑う。
「僕はお父様にも負けませんよ」
 この時の俺は弱かった。だから、こんなことを言えたし、口調もこんなんだ。
それでも、父さんはきっと俺に期待していたのだろう。
「はっはは、勝てるかな?」
 挑発するように父さんは笑う。それを見て、俺は無謀にも剣を構えて突っ込んだ。
一振り、二振りと剣を振ったが、そのどれもが父さんまでは届かず、空を斬る。
さらに悔しくなった俺は自身の体力を超えようと、さらに剣を振りまわす。
今度は、剣を交える父さん。
しかし、剣が交わった瞬間、俺の手元から剣が消える。
気が付いた時には、剣は後方に突き刺さっていた。
「ギッシュもまだまだだな」
「うぅ~! 僕だって鍛錬すれば勝てるやいっ!」
「はっはは。そうだな。その日が楽しみだな」
 豪快に笑い、父さんは剣を担ぐ。
「ギッシュも精霊遣いになちたいのか?」
「うーん、分かんない」
「そうか、そうか」
 微笑むように頷いた父さん。そして、続けるように優しく言う、
「精霊遣いになっても、ならなくても優しさだけは忘れちゃダメだぞ」
「うん。僕、忘れないよ」
「それはよかった」
 父さんは、ゆっくり頭を撫でる。
「あらあら、鍛錬もいいけど程々にお願いしますね」
 そこへやってきたのはカルク・ハウスベルグであり、俺の母親である。
栗色の髪の毛を真っ直ぐに降ろし、笑顔を浮かべていた。
その目元には、隠しきれない程優しさが滲み出ている。
「あぁ。母さん。どうかしたのかい?」
「どうかしたのかいって、もう朝ご飯できてますよ」
「もう、そんな時間か」
 屈託なく笑う父さんと母さん。……気持ちさっきから、家の方からいい匂いがしてくる。
「今日のご飯何なにー!?」
「はいはい、それじゃ行きますよ」
 母さんは手を差し出し、俺はそれを一瞬見つめた後に
「うん!」
 歩み出した。父さんもそれに同調して、手を繋ぐ。
 紛れもない幸せの一コマである。
普通で、平凡で、ありふれた日常であった。
だからこそ、幸せなのかもしれない。いや、だからこそ、幸せだったんだ。

 ある日、俺は一人自主練に励んでいた。
剣の修行を終え、次は魔法を学ぼうと家にある書斎に入り、魔法関連の棚をひっくり返して、初心者に近い俺でもできそうな魔法を探していた時だ。
俺がある物を目にしたのは。

「ギッシュ」

 気が付いた時には、勝手にその名を呟いていた。……俺の本当の名を。
頭は理解できなかったが、目は次の情報の追っていた。
「ヴァレン高原で餓死寸前のところを保護。その後ギッシュと当時の養育院の院長が命名。そして、五歳になった時にハウスベルグ家、現当主ミクス・ハウスベルグに引き取られる」
 資料を読み進めた俺は子供ながら理解した。
……俺はミクス・ハウスベルグ――父さんの子供じゃないと。
「嘘だ、嘘だ」
 そう呟きながらページをすすめる。まるで信じたくない光景から目を背けるように。嘘だって決めつけるように。
 けれど、読み進める毎に真実味は増して、深くなっていく。
どうやら、ハウスベルグ家は血の繋がった子を作らないのが決まりらしい。
そして、養育院から子供を引き取る際に、最も重要な条件がある。
それは魔力の素質を持ち、高水準のレベルであること。
以上が条件である。俺はは見事にどちらにも当てはまっている。
形容し難い気持ちになりつつも、読み終えた俺はとめどなく泣いてしまった。
両親と自身の間に血の繋がりがないだけで、俺は愚かな事にも血の繋がり以上の絆を信じられなくっていた。

その日以来、俺は両親と話すことをやめた。
何を話せばいいのか、分からない。そもそも、どういう風に顔を合わせればいいのか、分からない。
そんな思いを持つと、自然と家に居たくなくて、外出ばかりするようになった。
特に行先もなく、ただ彷徨うように歩く。
辿り着いた場所は公園だった。その公園は人が居なく、スッキリとしていて、一人になりたい自分には最適である。
しかし、誤算だったのはその公園に誰かが来るということ。
そして、その相手が――三年後再開する相手、リリンであったということ。
「キミはどうして泣いてるの?」
 俺とリリンが初めて目を合わせた瞬間であった。
当時のリリンはピンクのドレスを着こなし、頭にリボンをつけていて、見た目的にも煌びやかでお嬢様の雰囲気があった。
その時、リリンの背後に居た執事が俺とリリンの間に割り込む。
「お嬢様」
メリダ。どいて。今、私は話してるから」
 言葉選びは普通でも、その声は覇気があり、同年代の子供なら怯ませるのに充分すぎる言葉である。
「はっ」短く返事した執事は、リリンの背後へと戻る。
「私はリリン・アッシュフォル。キミは?」
「ギッシュ・ハウ――……。ギッシュ」
 ハウスベルグ。自分がその名を語っていいのか、自分はあの両親の子ではないのに。
そんな考えが頭を過ったから、思うように言葉が出て行ってくれなかった。
「ギッシュね。これから、遊ばない?」
「……」
 返事はしなかった。というよりも、迷ったからだ。
なぜなら、ギッシュがいくら当時幼くても、リリンが貴族ということは分かっていたから。貴族と勝手に遊んだりした場合、何かあった時、こちら側に不利が生じることがある。そのため、普段から母さんには貴族とは勝手に遊んだらイケないと言われている。
 無論、リリンの家だって、そう教えていたはずだ。
しかし、俺は貴族の名であるハウスベルグは使っていないからバレていないのだろう。
「お嬢様、それは――」
 執事の言葉を、リリンは片手で制する。
「私、暇なの・ね、いいでしょう?」
 今だから分かるが、当時の彼女はきっと俺が傷ついていることに気が付いていて、励まそうと俺を誘っていたに違いない。
それでも、俺は頑なに動こうとしなかったが。
「もう、来て!」
 不意に手が引っ張られる。そして、俺は彼女の思惑通り遊んだ。
遊具を使ったり、駆け回ったり、隠れたり、話合ったり。
一日という短くも長い日を使って俺は、俺たちは知り合い、遊んだ。
遊び疲れ、空を見てみると、もう紅くなっており、時期に夜が来る頃。
「お嬢様、そろそろ」
 執事がそう話しかける。
「そうね」
 リリンもそれに同調し、ちらっとこちらを見ると、
「キミ家に泊まっていく?」
「お嬢様、それはあまりにも――」
 またしても、リリンは片手のみで制止した。
「今度はあなたが決めて」
 彼女は静かにそう語りかけた。
「また、今度にするよ」
 小声で消え入るような返答だった。それでも、リリンは満足したのか、笑顔で別れを言う。
「それじゃ、またね。ギッシュ」
「うん。リリン」
 そうして、僕らは別れた。
帰り道、家の前に着くと、
「はぁ」
 自然と溜息が出て、俺は以前だったらありえない反応に戸惑い、そして、自己嫌悪を憶えた。

それからというものの俺は家に居る時間より公園でリリンと遊んでいる時間の方が長くなった。リリンもリリンで、毎日暇なのか、俺を公園で待ってくれていた。
夕刻になった公園は不思議な魔力でもあるのか、誰も寄せ付けていなかった。
「ギッシュ。また!」
 リリンは屈託ない笑顔でそう告げた。
「う、うん」
 自分の表情は分からないが、きっと曇りのある顔をしていると思う。
「どうかした?」
「う、うーん」
「何かあるのなら、言いなよ。伝わらないよ」
「まだ遊びたい」
 俺は嘘をついた。
本当はリリンと一緒に居たいていう訳でも、まだ遊び足りないという訳でもない。
ただ家に居たくなかった。それだけ。
彼女は、きっとそんな俺の浅はかな考えを見抜いていただろう。
でも、
「じゃ、そうしようか」
 受けて入れてくれた。
「ありがとう……」
 小さくポツリと呟く。
執事のメリダさんは良い顔をしなかったが、何も言わなかった。
何を言ってもリリンは言う事を聞かないと分かっていたのだろう。
けれど、時は残酷である。
日が昇れば、落ちる。そんな当たり前のことを俺は忘れていた。
つまりは、ただの時間稼ぎでしかなかったのだ。
それでも、どうしても家に居たくない。
今になれば、何故あそこまで意気地になっていたのかと思ったが、答えは簡単で、ただ単に両親の顔を見れば、自分がこの人の子ではない、と思ってしまうから。
そして、自分はハウスベルグのためだけに引き取られた孤児。
真実も、また残酷でしかなかった。
「さすがにもう帰らないと親御様に何か言われてしまうぞ」
 完全に日が逆転し、遊びという遊びをやりつくした俺とリリン。
 辺りは暗く、両親には何も言っていないので心配しているかもしれない。
いや、していないだろう。だって、俺は所詮、ハウスベルグの駒でしかないのだから。
本気でそう思っていた。
「お嬢様」
 メリダさんが少し強い口調で言うと、リリンは「分かっているわ」と返した。
「ギッシュ。何をそんなに思い詰めているの?」
「……」
 首をふるふると振った。言いたくない気持ちとぶちまけたい気持ちがせめぎ合う。
リリンは困ったかのように溜息をつくと、
「なら、今日こそ私の家に泊まるか?」
 メリダさんはそれを聞くと、焦ったかのように口走る。
「お嬢様イケません! 庶民を、お屋敷に誘ってなど――」
「それは彼が本当に庶民だったら……言いなさい」
 リリンが軽くウインクをする。どうやら、どこかしらで勘付かれていたらしい。
「僕の名前はギッシュ・ハウスベルグ」
「っ!?」
 メリダさんの顔から血の気が引いていくのが分かった。
「こ、これは失礼致しました!」
 慌てて、腰を折り、謝る。
一応、ハウスベルグという名前はここいらでは知られているから、メリダさんも知っているのは当然だ。それが貴族の執事なら、猶更である。
でも、本当のことは知らないのだろう。
ハウスベルグは地方の権力をあまり持たない庶民派貴族と知られているが、違う。
それも嘘ではないが、表があるように、貴族にも裏がある。
その裏をここの人はおろか、メリダさんもリリンも知らない。それだけ。
「ううん。いいよ」
 むしろ、メリダさんにはリリンが迷惑をかけていると思うし。
そこで、俺はリリンの親目線なことに気が付いて、軽く笑ってしまう。
「どうかしたか?」
「ううん」
「それで泊まるの?」
「そうしようかな」
 頬をポリポリと掻き、リリンに伝えるとメリダさんにあることをお願いする。
メリダさん」
「は、はいっ?!」
 メリダさんは背筋を伸ばし、敬礼をしていた。
「後でいいから、ハウスベルグ家に一報入れてもらっていい?」
「わ、分かりました!」
 その日に全てが壊れるとは俺は思いもしなかった。
なぜ、あの時、帰ると言えなかったのか。
なぜ、あの時、両親に自分から言いに行かなかったのか。
なぜ、あの時、俺は両親を避けていたのか。
届きたい言葉も、届けられず、繋ぎたい手も、繋げず、失われたことに気が付いたのはもう少し先の話である。

「へー、それで?」
 俺の昔話を聞いて一言。
「別に。何もねぇよ」
「ないことはないでしょう。両親とはどうしたの?」
「……別に。お前が気にしても仕方ねぇだろ」
 ソフアーに寝転がっていた体で無理矢理寝返りをうつ。
「気になるじゃん。両親とは仲直りできたわけ?」
「その質問には答えられないな」
「なんで?」
「答えがないからだ」
「はぁ?」
 疑問符を強調した強い口調であった。
「意味分かんないし」
「ロリガキにはまだ分からんさ」
「うっざ。うっざ。アンタだってアタシとそんなに変わらないでしょうが」
「いや、全然違うだろ……」
 ばふんばふん、と柔らかい何かを叩いてる音がする。
「もう寝ろ! このバカぁ!」
「おまえが――」
 うるさいからだろ、と言葉を続けようとした、その直後顔に一瞬の衝撃とその物体を表している優しいような柔らかさが伝わる。
「枕……?」
 顔からどけて、見るとそれは枕だった。先ほどまでアルカが叩いてたやつだろうか。
俺のためにくれたのか、ただ単に手頃に投げられるのがこれだけだったのが、知らないが、これだけは言っておこう。
「ロリガキ、おやすみな」
「ふ、ふん! それで、気持ちよく寝られることを感謝しなさいっ!」
 そして、最後の最後にアルカは「おやすみ」と呟いていた。

 今は、実践訓練の時間で場所は校庭ではなく、訓練場に居た。
ちなみにアルカは端っこに一人座っている。
「それでは今から、皆さんの戦闘訓練を始めたいと思います」
 今日もメイド服であるラルちゃんの言葉に、紺色の制服姿である、クラス総勢二十名が色々な反応を返す。
「めんど」怠惰なる者。
「うっし、きてぁ!」喜ぶ者。
「あ、そうすか」傍観する者。
 そんな中、俺はというと、
「戦闘訓練たってなぁ」
 微妙な反応を返していた。
なぜなら、俺は実技――戦闘が得意である。
筆記では遅れをとっていても、実技ではお釣りが来るほどに得意であった。
そんな俺が、今更戦闘で何を学ぼうと言おうのか。
でも、そんなことを言ってしまったら、この学校は今すぐ廃校になるしか、ないのでただ黙ってことの末を見ることにした。
「実は私、ちょっと戦うのアレなので、他の先生にこの授業は任せようと思います」
 先生も、もちろん精霊遣いである。
だから、一応といってはアレだが、基本的に戦えるはずだ。
しかし、精霊遣いというのはどうしても、強さ、力、能力が精霊に依存する関係で、本人の適正などもあるが、前衛や後衛、そういった物に区別される。
おそらく先生は味方支援とかで、今まで戦うことが比較的少ない精霊遣いだったのかもしれない。
気が付くと、ラルちゃんの隣には俺達より一回りは年上な男が立っていた。
 髪は短くおしゃれに切り揃えられ、眼鏡の光沢が眩しくて、瞳までは見れない。
何より、俺の目を惹いたのは、その先生がとんでもない強いということを本能的にだが、うっすらと気づいたからだ。
「僕はウィリアム。ミコステッド家の者で、精霊は――っと」
 そして、小さく「覚醒せよ(アウィク)」と呟く。
直後、ウィリアムの背後に、一体のドラゴンが。
「あれはウォードラゴンだな」
 隣にいたリリンが冷静に解説する。精霊博士か?
「通常のドラゴン種よりは確かに小さいが、その分彼らは自身の分身のように扱っている斧がある。あれを軽々と扱い、敵を殲滅することを得意としている、あとは何より、ドラゴン種ということで、基本的にスッペクは高いし、凡庸のドラゴンより小回りが利くのもいい」
 すると、ウィリアムの表情が変わり、リリンに対して拍手を送る。
「すごいね。……君はたしかアッシュフォルケ家のリリン君だったかな?」
「い、いえ。以前、どこかで習ったことの引用ですので」
 精霊博士は恥ずかしそうに笑っている。
「さて、今日はね。みんなに戦ってもらおうと思う」
 ウォードラゴンを消したウィリアムの一言にクラスはざわつく。
「二人一組のペアで戦うこと。ケガだけはないように」
 一人の女生徒が恐る恐る挙手する。
「あの……それって自分たちで戦う相手を決めるってことですか?」
「うん。そうだね。僕はもちろん、この学園は自主性こそ大事にしてるからね」
 ペアということは……俺はリリンか?
なぜなら、俺には友達が居ない。
入学してまだ間もないこそあるが、俺はハッキり言っていい印象を持たれていない。
ズル、セコい、無名貴族、田舎者、俺が知ってる俺の呼び名だ。
基本的に貴族なんてのはプライドばっかで、自分より下の者を蔑む存在だ。
それが、どんな事か、学園長のお気に入りと知れば尚の事だろう。
 よって、俺にペアを作れということはリリンと組めということである。
「おーい、リリン――」
「うむ、よろしく頼む」
 リリンは他の女子と仲良さそうに握手をしていた。
それを見るやら、どうやら交渉――もとい、ペアが成立したらしい。
くそ、裏切ったなリリンめ。
「ギッシュ君。ペアはできたかい?」
 ウィリアムがハニカミながら問う。もちろん、できていない。
それどころか、このクラスはどうやら一人余るみたいで、その余り物は俺みたいだ。
まぁ、授業合法的にサボれるし、いいか。そう思ったところで、
「どうやら余ってるようだし、僕とどうだい?」
 クラスに激震が走った。一教師が一生徒に授業とはいえ、勝負を申し込むなんて聞いたことない。でも、
「遠慮する」
「それはどうして?」
 きょとん、とした表情でウィリアムは再度問う。
「ケガ……させたら仕事できないだろ?」
 その発言に、リリンを含めクラスが動揺し始める。
「何だあいつ」「生徒が先生に勝つわけないよね」「ねぇ。どうかしたのかしら」
 俺だって別に言いたくて言ったわけじゃない。それでも、俺が勝つのは事実だと思っている。
「ふふっふ。いいね。ぜひ、やろう」
「そこまで言うなら」
 それにウィリアムを見ていると、俺はどこか嫌で仕方ないし、ここは負かそうと思う。

「勝負はダウンをとった方が勝ち。降参するのも良し。精霊は試合開始から三分経過したら使ってもいいこととする。いいね?」
 ウィリアムの発言にクラスは「はい」と返事する。しかし、俺は、
「待て待て。俺の精霊どうすんだよ」
 端っこに座っているアルカを指差す。アルカも気づいたようで嫌な顔をしていた。
「どうするって……あれが君の精霊なのかい?」
「あぁ、そうだよ。アイツに対しては目覚めよ(アウェイク)も眠れ(シュラフェ)も意味ないんだよ。つまりは、俺はあいつを介して戦えない」
「なら、僕も精霊を使うのやめよっか?」
 俺は本来その提案を向かい受けるべきだった、でも、それを、
「んなことじゃなくて! もういい。俺だけで勝ってやるから」
「そう」
 短く区切られた言葉に対して、背を向け、距離をとり始めた。
そして、お互いの距離が十分にとれたところで、俺たちはお互いの得物を取り出す。
俺はダガー、向こうは剣。
じりじり、と視線が俺の体に突き刺さる。
ここで、俺がコイツを倒せれば、クラスの目も変わるかもしれない。
そうだ、きっと、そうだ。今に見ていろ。
ギッシュ・ハウスベルグはここに――
「っ?!」
 目の前にウィリアムの姿。迫りくる刃。横薙ぎにされたそれを体勢を無理矢理後ろに崩して避ける。そして、体勢を再び整える。
彼は笑っていた。いや、嗤っていた。
「とんでもねーペテンだ」
 次は俺の番だ。
間合いを一気に詰め寄る。ダガーを逆手に持ち帰る。
すれ違いざまに一閃。
 甲高い金属音が漏れる。
再び、後ろ目掛けて横薙ぎに斬る。それもウィリアムは悠々と防ぐ。
俺の動きが激しい鬼舞なら、あいつの動きは優雅な剣舞。
「やっぱり、君は君だな」
 小声で粒かれた、その言葉は俺の意識を向けさせるのに充分すぎた。
その瞬間手元から重さが消えた。否、ダガーが手元から離れ、空を舞っていた。
「……まだだぁ!」
 バックステップ。手元に力……魔力を込める。
そして、呟くは呪文。紡ぐは詠唱。
「ファイ・ラファ・デ・カルタ!」
 手元から拳大の火球が現れ、それは意思を持ってウィリアムを襲う。
攻撃魔法である。
「ウォ・ラファ・デ・スイラ」
 彼もまた、魔法を紡ぎ、唱えていた。
そして、唱え終ると、ウィリアムの回りに水がぷかぷかと浮かび、それが剣を交わる。
 付与魔法(エンチャント)である。
火球を水の刃で斬ると、火球は蒸発したかのように焼けた音を出し、霧散した。
俺は再び、詠唱を続ける。その時、三分が経過した事を知らせるブザーが鳴った。
そして、ウィリアムは俺を見て嗤う。

「時間切れだ――――目覚めよ(アウェイク)」

 斧を担ぐドラゴン――ウォードラゴンがウィリアムの背後に居る。
あまりのプレッシャーに俺は詠唱を止めてしまう。
本能がヤバいと告げていた。そして、それはきっと当たる。
「精霊武具(コネクト)」
 ウィリアムが弾いた言葉は、強大な力。圧倒的なまでの力。
精霊が何かしらの武具となり、人間がそれを媒体として敵と戦う呪文。
そして、ウォードラゴンは斧と小手になり、ウィリアムの右手に見事に装着した。
それはもう斧というよりかはバトルアックスたる物に近い。
剛力な斧は何もかも薙ぎ払うだろ。目の前の障害を。そして、俺さえも。
しかし、俺は負けない。
「ライン・ラファ・デ・ヴァゼロ!」
 手をウィリアムに翳し、閃光にも似た雷撃を繰り出す。
無論、それだけで倒せるとは思っていない。狙いは次の一手。
「悪あがきだよ!」
 バトルアックスを軽々と振るう。それだけで地は割れ、雷撃なんて霧散した。
そこだ。

 俺の視界から色が失われる。
赤も、黄色も、青も。何もかもが失われた世界。
そこにあるのは限りなく停止したような物だけ。
俺、ウィリアム、リリン、他の奴ら。

 そして、俺はウィリアムの背後に転移(ワープ)した。
しかし、驚くべきことにウィリアムは予想していたのか、こちらに振り向こうとしていた。
それでも、俺は構うことなく、彼の首筋に、腰に刺していたもう一刀のダガーを押し付ける。
「はっはは、なるほど。そこまで君は……」
 ウィリアムはただ嗤った。
「降参だ。負けだよ」
 若干府に落ちなかったが、勝ちは勝ちだ。
クラスメイトはおろか、リリンでさえ、最後の数秒何が起きたのか理解できていないようだった。それもそうだ。
この技こそがハウスベルグの証であり、俺の存在意義であり、家族を引き離した技だから。

戦闘訓練が終わり、教室で精霊学問の授業をする前の休憩時間。
クラスメイトは俺の席に詰め寄っていた。それは、
「ギッシュくん。君凄いね!」一人の男子が、
「どうやって勝ちましたの?」一人の女子が、
「俺ァ、こいつが実力者だってのはァ知ってたけどなァ」みんなが、
 口を揃えてお喋りをし始めた次第だ。
 とにもかくにも、俺は勝った。
それは事実である。例え、相手が手を抜いていようが、勝ちは勝ちだし、事実は決して曲がらない。
俺は見返そうとした。けれども、こんな風に詰め寄られることを期待したわけではない。
自分自身が……ギッシュとしてではなく、ハウスベルグ家を下に見られたのが嫌なだけだった。
「揃いも揃って調子のいいものだな。貴様らはあれだけ、ギッシュを下に見ていたというのに」
 俺の周りがざわつく中、一人だけ意義を唱えた者が居た。
「アッシュフォルケの……」
 リリンだった。長く二つに括られた髪をチラつかせて、彼女はさらに言う。
「貴様らの心がそんなんじゃ、精霊も大したことなさそうだな」
「んだとぅ?」
 それに一人の男子生徒が噛みつく。
「なんだ? 何かあるなら、言ってみろ」
「……ちっ」
 舌打ちをし、男子生徒は去って行った。それに続いて、俺の周りは霧散する。
「…………お前友達できないぞ」
 リリンに向けてそう言う。
「なっ?! う、うるさい! 私は正しい事を言ったのみだ」
「まぁ、でも。ありがとうな」
 リリンは自分がやったことが恥ずかしいのか、俺のセリフを恥ずかしく思ったのか、耳まで紅くした。
「だ、だから、私は私は正しい事を言ったのみだ」
「それでも……だ」
「ふ、ふん」
 リリンは髪を揺らし、顔を背けた。
「それにしても、キミは本当に強くなったな。昔は私にすら、泣かせられていたのに」
「いつの話出してんだよ、それ」
 軽く笑うと、リリンも薄い笑顔を張り付ける。
「精霊武装を使う先生も凄かったが、それを倒してしまうキミもな」
「まぁ、別に大したことはねぇよ」
 これを言ったら、俺に負けた先生の顔はまるで無くなるが。
「最後のは何だったんだ?」
「最後の?」
「ほら、ギッシュが急に先生の背後に現れた技だよ」
「あぁー、うん。どうだろうか」
 リリンは怪訝そうな眼差しを向ける。
「どうだろうって……使ったのはキミだろう?」
「そうなんだが……って、そういえばロリガキは?」
 さっきの授業が終わってから、一切見ていないが、どこに居るのだろう。
「キミの精霊なんだから。居場所くらい分かるだろう?」
 精霊遣いと精霊は契約を結んでいるため、なんとなくだが心で通じ合い、お互いの居場所まで分かるらしい。……らしい、というのは俺には感じないから。
「いや、分かんねぇな……。ぜんっぜん、そういうの感じない」
「そうか。……キミとアルカは本当に契約しているのか?」
「どうだろう」
 またしても、リリンは怪訝そうに見つめる。
「キミは本当に謎が多いな」
「俺もそう思う」
 少なくとも、アルカに関しては俺自身まったく分かっていない。
「まぁ、いい。もう精霊学の授業だ。戻らせてもらおう」
 手を遠慮がちに振り、リリンは去る。