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ラノベとゲーム制作かもしれないブログ

オタクが最近読んだ見たラノベアニメ作るゲームの話を書きます。

いつか届いた神域~幸福な少年様~

ライトノベル 創作

人間は醜い。
最近のドラマなんかではそういう哲学染みた事を言う。
そして、それには僕も同意せざるを得ない。
人は醜い。
実例を紹介しよう。
今朝のことなんだが。
僕はいつものように通学しようとバスに乗った。
そのバスは至って普通で乗車人数も30人前後だと思う。
僕が乗った時には座席は埋まりしぶしぶ僕は立っていた。
そこまでは特に何もない。
話はここからで、そこに60過ぎのおばあさんが乗ってきたんだ。
ここで正しい行動は小学生でも知っていると思うが当然席を譲るだ。
けれど、意外と席を譲るという行為は歳を重ねるだけ難しくなる。
それは怠惰なのか、羞恥心なのか、無関心、はたまた利己主義なのかは普通は分からない。
けれど、僕には分かる。
すべてが声となり音となり聞こえた。

 

 

(うわ、まじかよ)

僕と同じ学校の人がそう「思う」
見かけたこともないし知らないだろうから他学年だろうか。
彼は別に言葉を発していないのに僕には聞こえる。心の声が。

(ちょっと、誰か)

(知らない、知らない)

次々聞こえる声、それはどれも優しさとか敬いとか慈愛とかそんなものは無かった。
あったのは嫌悪とか悪態とかだった。
別に悲しくなんてなかった。
むしろ、それがもう普通だった。

僕には心の声が聞こえる。
それはある日突然と僕に与えられた。
最初は誰かが喋ってるかと思ったけれど、それは違った。
これはそんな言葉という上っ面のものすべてを取り払った確かな声が聞こえる力。

「あ、あの席座りますか?」

これは驚いた。
これまた僕と同じ制服に身を包んだおとなしそうな女子が頬を赤くしおばあさんに席を譲っていた。
席を譲ったことに驚いたのではない。
今までだって内心めんどくさい思いながら笑顔で席を譲っていた人はいたし。
けれど、この人は心と言葉が一致したんだ。
心の底からそれを望んでいるということだ。
こういう人も居るが大抵の人はウザがる。
だから、人は醜い。

そんな出来事を抜け僕はホームルーム前のクラスに居た。
窓側最後尾、いつも席だ。
そこから見る体育会系の朝練は今日も熾烈を極めるものだった。
毎日よくやるものだと感心すらする。
視線を机の中にやり、一冊のノートを取り出す。
それを机に開き中を確認する。
僕が趣味で書いている小説だ。
そして、それは毎日テキトーな時に少し更新している。
最後に綴ったページを見る。
僕が書いた文字でない、可愛らしい文字で感想が書かれていた。
毎日僕が書いてできた空きスペースに感想が書き込まれる。
僕が小説を書き始めたのはつい最近で感想が書かれる様になったのはもっと最近だ。
最初こそ恥ずかしかったがいい機会だし僕は見てもらうことにした。
しかし、感想を書いている人を知らないし知ろうとも思わない。

「楽しみにしていますか……」

僕には人の心が聞こえる力がある。
けれど、文字からは察することはできない。
だから、余計に信じれたのかもしれない、この言葉を。
見てしまったら僕には本当が分かるから。
真実が聞こえてしまうから。
だから、見えないものに幻想を抱きそれを信じたいと思ってしまう。
そして、それを信じる。

「ふふっ……」

少し頬が緩み気づいたら僕は鉛筆を取り出しノートに綴っていた。
すらすらと今日はなぜかいつもより鉛筆がすすむ。
ノリノリで書く僕は客観的に見たら気持ち悪いと思う。

「坂田ー」

内心舌打ちをして鉛筆をとめる。
僕の名前が呼ばれ声のした方に顔を向ける。
呼んでいた友達……だった中田だ。

「ん、なに」

「今日、どっかいかね?」
(飯おごってくれー)

まただ。
中田の声が二重に聞こえそれは全然別の意味を語っていた。
僕が友達だったと過去形にしたのはこれのせいだ。
金づるとしか思ってなさそうな奴を友達を呼ぶほど僕は別に友達を欲していない。

「ごめん、今日はいけないかな」

しかし、それを面と向かって言えるほど僕は強くない。

「またかよー」

「仕方ないな」と後ろ髪を掻きながら自席に戻る中田。
それとほとんど同時にホームルームを知らせるチャイムが鳴った。
担任が入り今日の授業の説明と欠席確認。
言うほど今日の授業に特別性は無く十分とかからずに担任は出て行った。

何事も無く授業は終わりを告げ昼休みに入る。
机横にかけてある鞄から自前の弁当を手に取る。
それを持ち立ち上がりクラスを出ようとした時

「坂田、飯食わない?」

中田に話しかけられた。
今では距離をとっているがとる前は毎日一緒に飯を食べていた。
しかし、今の僕は前の僕と違うから分かる。

(おかずくれないかなぁ)

こいつはどれだけ腹が減っているのだろう。
さっきから飯の話ばかりじゃないか。
まぁ、いい。
答えは決まっている。

「悪い、中田。今日は先生に用があるんだ」

「用?」
(嘘っぽいなぁ)

その聞こえてきた心の声で僕はビクッとしてしまう。
今までそんなことは想われてなかったからだ。

「あ、あぁ。進路調査でな。僕たちもう二年春だし」

「そっか」
(うーん、なんだかなぁ)

一応納得はしてもらえたようだがこれじゃまたいつか疑われてしまうだろう。
自分は嘘がつけるのに相手は嘘をつけない。
反則技だ。
けれど、別に罪悪感は感じない。
人は醜いのだから。
これぐらいは許される。

「じゃ、僕行くから」

そう言ってクラスを後にする。

職員室は僕が居るクラスより一階下で階段を下りる必要がある。
しかし、僕は降りない。
むしろ、逆だ。上っていた。
僕が目指すのは職員室ではなく、屋上だ。
一歩ずつ屋上に続く階段を歩む。
次第に屋上に入るドアが見える。
普段は簡単な南京錠で入れないようドアが占められているのだが最近誰かが無理やり壊したのか空いていた。
そのおかげで僕が入れるんだけどね。
ドアノブに手をやりそれを捻る。
軋む様な金属音ばなるがお構いなしに続け屋上に入りフェンスまで歩く。
特にここまで来たのは意味がない。
ただのマイブームだ。ここで弁当を食べるのが。
食べ終わり寝転びただ一つ僕は思った。
今日も空は青かったと。

「ただいま」

授業が終わりいつもの様に帰宅する。
それに反応して何かが出迎えてきてくれた。
それは猫のアインシュタインでもなく犬のアーノルドでもなくて

「お兄おっかえり!」

僕より頭一つ分くらい背が低い女の子で肩まで綺麗に切り揃えられていた髪は僕の天パとは違い真っ直ぐに伸びていて素直に嫉妬する。
そんな僕の妹である彼女は珍しくの帰りに反応した。

「香澄、どうしたんだよ」

「んふふ~、香澄お兄のこと待ってたんですよ」

「そうですか~」

受け流しつつ階段を登ろうとしたが残念ながらそれは香澄が足に纏わりついてきたため阻止された。
軽く溜息をつく。普段は僕のことを蔑むくせに何か狙いがあるとこういう感じにうざくなる。

「なんで香澄を無視するのぉお」

「めんどくさいじゃないか」

「妹ですよ!い・も・い・とだよ?!」

「だから、それがどうしたっていうんだ」

纏わりつきながらする、口での攻防戦。
妹の主張は相変わらず意味が分からない。

「お兄には妹属性がないの?!」

「そんな属性僕にはいらないよ!」

ぐぬぬぬー!!!」

「あー、わかったわかった。僕の降参だ降参」

それを聞くとパアァァアと明るく笑顔を浮かべる香澄。
ほんと降参だよ、香澄には。
階段から場所を変え僕の自室で話を聞く。
自室と言ってもそこら辺の高校生と大して変わらない部屋風景。

「で、お兄に相談なんだけど」

ベッドに座りながら香澄が言う。
ちなみに当の僕はなぜか香澄から見て正面で正座をしていた。
何の罰ゲームだろうか。
ちなみにさっきから僕の力が発動していないのは僕が発動させていないからだ。
僕の力は任意で人の内なる心を聞くことができる能力。
さすがに実の妹の心を聞くことはできないからね。

「うん」

神妙な顔で口を開く香澄。

「あた、……、あた……しさ、その……」

「? 全然伝わらないぞ」

そう言うと顔を赤くするがその直後には怒りの形相を浮かべる。

「う、うっさい!お兄ちょっと待ってて!!」

そう言われ僕は黙るしかなかった。
だって、何か言ったら今にも殺されそうだから。
基本的には僕より妹の方が立場が上だ。悲しいことに。
スッーと深い息をため込み次にその息を吹き出す、所謂深呼吸を一回。二回繰り返す香澄。
「よし!」と自分の頬を叩き顔を作り直す。

「お兄、あたしの彼氏になって」

……。

…………。

「は?」

僕は香澄を指し

「香澄が」

次に自分を指さし

「僕の事好きだって?」
と疑問を口に出す。

その瞬間赤くなった、いや、正確には怒りの形相の香澄の鉄拳が僕の顔面にクリーンヒット。
殴られ態勢を崩す。
次の瞬間には寝転びながら叫んでいた。

「いたっ! え、めっちゃ痛い! え、え、え」

とりあえずというか普通に困惑する。
僕の理解力ではどうやら理解するのは難しい様だ。

「だ、だ、誰がお兄の事好きなんて言ったのよ!」

「え、いや、だって、彼氏って――」

「『振り』でいいのよ、『振り』で」

「だったら、そう言ってくれよ……」

それを言ってくれれば少なくとも殴られることはなかったんじゃないだろうか。
ほんとに、勘弁してくれ。

「なんで、僕が振りをするわけ?」

「え、いや、それはさ、あはは」

枝毛を探すようにいじり、話を逸らそうとする香澄。

「言わなきゃやらないからな」

『うっ』と低い声を出し、次第に観念したのか『実は……』と語り始めた。

 

「……ていうことです」

香澄は語り疲れたのか気が付けば僕のベッドに突っ伏していた。
少しだけど気恥ずかしい。
香澄の話を整理すれば流れで彼氏自慢をしてしまったので引くに引けず明日デートをするということだ。
しかも、そのデートは友達がプラン立てしてくれたようで……。
この妹はホントに僕の妹なのかとたまに疑いたくなる。

「わかったよ、やるよ。でも、僕でいいのか?」

香澄は贔屓目無しでも普通に可愛いし胸もまぁ、中二と考えればまぁ、うん、素晴らしい。
だから、彼氏とか居ても決しておかしくない。

「ふぇ?! な、なんで?」

いつもに増して顔が赤く、そして動揺しているように見える。

「それこそ彼氏とか――」

「い、いないよ!」

どうやらいないらしい。
ホントかは分からないけど。
僕の力を使えば分かるかもしれない。
けれど、この力を香澄に使わないと決めたのは僕だから。
だから、香澄に使わない。

「じゃ、明後日お願いね」

それだけ言って香澄は僕の部屋から出て行った。
理由は何であれ、香澄と出かけられるのは素直に嬉しかった。
僕の家族は香澄だけだから。
親は二年前に離婚した。
元々仲は良くなかったのだが離婚を決定着けたのは双方の浮気だ。
結婚当時は神の前で祈りを捧げ双方は死が互いを別つ時まで生涯を共にすると誓ったというのにそれを反故にした。
そこまでは嫌だけどまだ『マシ』な方だ。
離婚して僕たちはどうなるんだ。
母さんは僕たちを否定した。あの人に似ている僕たちを見て嫌悪し蔑んだ。
僕はともかく香澄はひどく傷ついた。
なんで何も知らない何もしていない香澄が傷つかなきゃいけない。
父さんの方も新しい恋人の間に子供が出来、僕らを捨てた。
家族すら信じられない、この世界でホントに誰を信じればいい?
なぁ、教えてくれ。
僕は誰を信じればいい?



「ふぁ~、ねっむいなぁ」

「別に」

昼休みになり少し経った頃中田が僕の席に来て僕に話しかけそれに対し冷たく接する。
書いていた小説を机に仕舞い、席を立つ。

(最近どうしたんだ?)

そんな声が聞こえたが別に答える必要もないしでクラスを出ていく。
出ていくと同時に入ろうとした人が居たのか少し体がぶつかる。

「あ、ごめん」

顔を下に向けていて顔が確認できない。

「……」

少し気になり心を聞こうとしたが力は顔を視認できなければ発動できない。
そのため僕が彼女の声を聞くことはできなかった。

「ま、いっか」

また、いつもの階段を上り屋上を目指す。
そして、ドア付近に来て違和感を感じた。
いつもの南京錠が床に投げられていた。
いつもはぶらーんと付いていた意味のない南京錠は無残にも誰かに吐き捨てられたガムみたいになっていた。
恐る恐るドアを開けるがやはり軋む様に金属音が鳴りそれを聞いたのか外から声がした。

「誰っ?!」

溜息を少しつき、ドアを力一杯開く。
そして、目の前に広がったのはフェンス付近に居る女の子の容姿だ。
腰まで伸びた髪に目元にギリギリかからないくらいの前髪、そしてオシャレでかけているわけでもなさそうな眼鏡。
制服も特に着崩しをしているわけでもなくきっちりと着ていた。
たぶん、こういう人を『地味』と言うのだろう。

「え、と、二年の坂田だけど」

「何しに来たの」
(聞いたことない……)

「弁当食べに」

そう言って弁当をチラつかせる。

「そうですか」
(そうですよね)

納得したのか視線をフェンスに戻す。
僕はいつものとこに座り弁当を広げ「いただきます!」と言い食べ始める。
当然ながら微妙な空気になり非常に気まずい。
ご飯も美味しくない。

「なぁ」

急に話しかけてビクッとした動きを見せる。
ちょっと可愛い。

「僕まだ名前聞いてないんだけど」

「……別に何でもいいでしょ」

「良くはないだろ、きまずいだろ」

「……」
(別に私と話さなくても)

「あー。もう! そういうのいいから名前は?」

「九条奏……」

「いい名前じゃん。もっと誇りなよ」

そう言うと腹が鳴る音が聞こえた。
聞こえたと言ったのは僕ではなく他人が鳴らしたからだ。

「九条、腹減ってるなら僕の食えよ」

顔を赤く染め俯きながら小さい声で「頂きます」と言い僕の横で弁当を頬張っていた。
まるで生きてるのが嬉しい様に。
これが自殺志願者なんて驚きだ。

「なぁ、九条」

必死に頬張っていたものを飲み込んで僕の顔を覗く。

「ん?」

「なんで死のうとした?」

その瞬間九条は目を見開き驚く。
そりゃ、そうだ。
急にそんなこと言われ、しかも当たってたらそうなるよな。

「な、なんで」

「僕には分かるから」

「死のうとしたことが――」

それを言い終わる前に首を振って否定する。
どんなに辛くても死のうとしたことなんか一度もない。

「じゃ、なんで……?」

「僕には人の心の声が聞こえるから。僕がお前を見て初めて来て聞こえた声は『消えたい』だった」
僕は続ける。
「それに加えてフェンス付近にいたのもそうだ。でも、僕が居たから死ねなかった。僕に迷惑をかけるからだ」

「……面白いですね、そうかもしれません。心が聞こえるか、中二病ですか?」

クスクスと笑う九条。
どうやら僕の力については信じてもらえないそうだ。
信じてもらてるわけがない、そんなのは分かっていたけどやはり少しだけ、少しだけ辛い。

「乾いてる方なのですね」

「そうだな。自殺と知っておきながら止めないのは乾いてるだからだと思う。僕は正直自殺肯定派だ。
 別に死んでもいいだろう。誰だって死にたくなる時がやってくる。」

「そうですか」

九条は立ち上がりスカートの汚れを払って僕に背を向けて歩き出す。

「なぁ、ほんとに……その死ぬのか……?」

九条は振り返り目を丸くしきょとんとした。
それもつかの間ドアの方に歩き出し僕に背を向けながら喋る。

「できるかぎりなら」

そう言って乾いた音を残し九条は視界から消えた。
別に僕にとってはどうでもいいじゃないか。
この世界では今僕がこうして居る時に誰かが悲しみ、死んでいる。
それが「たまたま」近くで起きただけじゃないか。

……。

……たったそれだけなのになぜこんなにも苦しんだろう。

人はどうしても誰かを傷つける。
傷つけて傷つけられる、ただその繰り返しだ。
過去から今。
今から未来。
それはきっと僕たちが変わらなきゃ変わらない世界の決まりごとみたいなもの。
そんな乾いた僕だからこそ今日九条を止めなかったのかもしれない。
もし、僕が物語の主人公みたいに善人だったら止めた……と思う。
けど、僕はそいつらとは違う。
だから、止めなかったし止められなかった。
結局のところ僕も加害者と同じ醜い人間だった。
そんな罪作りな僕だから夢を見た。
その夢はとても醜悪で酷く苦しい夢だった。
九条が僕の目の前で飛び降りて死ぬところに居合わせ、僕はフェンスから下を見下ろして確認した。
九条の体が不快な真紅に染まるのを。
近くに行き近くから見てもそれはやはり、綺麗とは程遠いドロドロとした真紅の液体。
思わず嗚咽をもらし、体の内側から出てくる吐き気を抑える。
まじまじ見れば九条の体はぐちゃぐちゃで腕は変な方向に曲がっていて足も同様だ。
しかし、不思議なことに顔は綺麗に整ったままだった。
それが僕には耐えられなかった。
まるで僕に――。

「なんで助けなかった?」

と問いただしているように見えて仕方なかった。
誤りの言葉すら出ずに僕はその場で体の内側から迫りくるものを抑えきれずに吐き出した。
そこで僕は目覚め、カレンダーを確認し夢と気づいた

「はぁはぁ……」

汗が寝間着を汚し、しまいにはシーツにまで浸食していた。
どれだけの汗を僕は流したのだ。
ドタドタと勢いよく一定のリズムで階段を駆け上がる足跡が聞こえる。
それは少ししたら静まり勢いよくドアが開かれた。

「お兄~!」

「ん、香澄じゃないか」

「?なんでそんなに汗かいてるの?」

「え、あぁ、これは暑くてな……はは」

香澄ももちろん、僕のこの力を知らない。
香澄だけは普通に生きて欲しい。
そう思って余計な心配をかけたくないので特に言ってない。
それはこれからも続いていく守るべき、通すべき、知られてはいけない『嘘』

「それより! 約束」

「?」

首を傾げる。
なんだっただろうか。
思考を巡らせるが分からない。
というか憶えてない。
最愛の妹の約束を忘れるなんてことこれまであっただろうか。
いや、普通にあった。

「デートだよ」

「は?」


時は同日。
日も出ていて空は僕を嗤うかのように晴れ渡っていて少しムカついた。
溢れ出る人ごみの中から僕は目標を見つけた。
それは周囲の人より少し小さくぴょこぴょこと動き回っていて僕としては少しおかしく思える。
そいつは僕を見つけると優しく微笑み言った。

「待った……かな?」

「全然、むしろはやかったね」

「そ、そうかな」

「あぁ、僕としてはあと三時間くらいは待つ気概だったよ」

「むっ! 馬鹿なこと言わないではやく行こっ!!」

「それにしても……」

舐め回すように足先からつむじまで視線を送り、またつむじから足先まで視線を這わせる。
確かに今日はいつもより可愛い。
少し大人っぽい白いワンピースに少しのスパイスとして頭に可憐さ、子供っぽさが残る麦わら帽子。

「な、なに?」

「うん、可愛い」

白い肌を露出させる作り込みは天使と悪魔の同居のようなものまで感じさせる。
総合的にありと断定する。
いや、『実』の妹だから、べ、別に何とも思わないけどね。

「~っ!」

急に頬を、いや、顔を紅潮、いや、真っ赤にする。
熱でもあるのだろうか?
熱をおでこで測ろうとしたら胸に手をやられ押し返された。

「も、もう急に何言ってんの?!?! い、いくよっ」

「だ、大丈夫か? てかどこに……?」

「遊園地」

ぷいっと僕から目を逸らし僕を置いていく。

「待てよ、「香澄」」

ひとりでさくさく、きりきり歩いていって、仕方ないので僕も後ろから追う様な形で歩く。
世界でただ一人だけ信じれる家族を見失わないように。



世の中の童話には「幸福な王子」というのがある。
それは人々の象徴である金箔でできていた。
しかし、王子は知っていた。
ここには幸せの反面である不幸せがあると。
それがどうしても許せんかった。
いや、きっと見ていられなかったのだけかもしれない。
だから、王子は友達であるツバメに頼んだ。
あそこでお金を落としている子に私の金箔を。
あそこで泣いてる子にルビーでできている右目を。
あそこでお金がないために蔑まれている子にはサファイアでできた爪を。
そんなことを王子は続けた。
それと比例して人々からは注目されなくなり遂には廃棄を余儀なくされた。
それでも王子は人を決して恨まなかった。
そして、ツバメに最後のお願いをした。

僕は王子を心底馬鹿だと感じた。
だってそうだろ?
王子は別に知りもしない人を助け宝石を失いみすぼらしい姿にされそのせいで廃棄って……。
そんなのあんまりじゃないか。
裏切りじゃないか。

そんなのってないじゃないか……。


「……! お兄!」

一瞬目ぼけていた頭を起こす。
目の前には少し頬を膨らませた最愛の妹の香澄。
周囲には家族連れ、恋人の姿。
あとはその人たちの食欲、疲れを癒す出店の数々。
そこまで来て思い出した。

僕は香澄の願いで一緒に遊園地に来ていて一通りアトラクションを回っていて僕が先に休ませてくれて懇願したのだった。

「もう、デ、デートなんだから、その、ちゃんと……」

「ん?」

「も、もうっ」

香澄はもう食べ終わったトレイを手に持つと席を立ち、店の方へ向かった。
僕もそれに従い香澄の後ろを付いて行く。
トレイを返すとすぐさま僕の腕を掴んではやめに歩き出す香澄。
やがてその歩も止まり一件の店に着いた。

「アクセサリーショップ?」

それは遊園地などの中に入ってるお土産や思い出のための売店だった。
中にはそこまで高くない、学生でも十分手が出せる金額のアクセサリーが売られていた。
香澄を見ると物欲しそうに僕を見てやがて、一つの物を指差した。

「んっ!」

「これ、僕が買うんだよね……?」

「もちろん」

「え、と、断ったら?」

もちろん、断る気はさらさらないけど。

「地団駄踏む」

「それは困るから買うよ」

香澄が指定したものは赤い宝石……、おそらくルビーを真似たものをツバメらしい鳥が加えているペンダントだった。
僕から見てもそれはそれは綺麗だった。


店から出て一言、香澄から言われたのは

「遅かったじゃん」

「そりゃ、遅くもなるよ。こういう出費は精神的に辛いからね」

「最愛の妹が喜ぶなら本望でしょ」

そう言うと手を差し出してきた。
物品を所望していられるのか、僕は素直に小言を呟きつつも渡した。

「……それ自分で言ったらお終いだよ」

「シスコンも大変だねー」

「おい」

「ねぇ」

香澄は綺麗に収められた小物入れから先ほど買ったペンダントを僕に渡してきた。
それを意味することが僕には理解できなかった。
……理解しようとすれば分かるだろうけどそれは僕自身で踏み越えてはいけない一線だから今までもこれからも自制していく。

「一人じゃ、着けられないよ?」

そう言って後ろを向いた。
肩まで綺麗に切り揃えられていた髪からは大人の片鱗を見せるうなじが覗ける。
思わず生唾を飲んでしまう自分が気持ち悪い。

「あ、あぁ。 ごめん。 これでどう?」

僕の正面に向き直した香澄は。
香澄はとても綺麗だった。
兄とか男とかそういうの全部抜きにしてただ綺麗だった。
胸元で輝く赤の石は香澄の明るさを示している様な色だった。

「似合ってる?」

「あぁ、すごく……、似合ってる」

この光景を見たら間違いなくカップルだろう。
それも初々しい。
でも、現実は違う。
僕たちは家族。
同じが血が通っている家族。
僕の嫌いな人の遺伝子でできている僕と香澄。
僕たちは確かにこれからもずっと一緒だ。
それでも関係は兄と妹。
それは変わらない、何があっても変わらない現実と未来。

時はもう夕暮れになりかけていた。
オレンジ色の空がこの遊園地を包み始め次第に人も去って行き始めた。
僕たちはあれからもアトラクションに乗り続けた。
香澄が楽しそうで僕は嬉しかった。
もちろん僕も楽しかったし普通に笑えてた気がした。
何より自分が行き過ぎた力を持つ人間だと忘れることができた。
それだけでも僕はここの遊園地に居る人と何ら変わらない幸せを掴んでいる……気はした。
ほんの一瞬前までは――

ぞくっと嫌な汗が噴き出た。
嫌悪とかじゃない、それはまるであれから顔も見合わせていない両親と再会するような身内の威圧感。
思わず振り返る。
奴らは居た。
僕に向けて威圧を放っている二人組が居た。

「香澄、悪い。 先帰っててくれ」

「え、あ、うん……」

少しテンション低めの声で香澄がそう言う。
香澄が一人で歩く姿は心苦しかった。
それでも、僕の直感が正しければ香澄はこの事に関わってはいけない。
妹だけは守る。
例え神からでも。

やがて、二人組が僕の前に来て、そこで歩を止める。
一人は僕と同じくらいの目つきの悪い男で見たことない制服を着ている。
もう一人は少し幼い、それこそ香澄と同じくらいの長い髪をしている少女だった。
見た目と威圧のギャップに思わず腰が引ける。

「どうもです。『心音聴力』の与者(よしゃ)さん」

少女は言う。

「何を言っている?!お前らはなんなんだ」

一滴の曇りのない笑顔で。

「私たちはあなたと同じ与者。つまり神から異能を与えられた者です」

「異能……だと?」

心当たりないわけがない。
むしろ、心当たりしかない。
僕の力は、人の本当の心が聞ける能力は紛れもなく異能だ。

「そうです」と少女は続けて言う。
それに続いて目つきの悪い男は噛みつくように言う。

「おめーの心を聞ける能力、それはまず間違いなく異能だ」

「な、なんでそんなことがわかる? 僕がそんな頭おかし――」

「あぁ?なにいって――」と男は言い始めたが少女がそれを手を前に出し制止させた。
そして、これからは少女が説明すると。

「まず私たち、神域に達した与者は人に認識されません。」

そう言うと男に首で命令を促す。
合図があると男は来ていた制服を脱ぎパンツ一丁になって恋人と来ているであろう女性の前に仁王立ちしてみせる。
明らかにマナー違反。
それどころか法律違反だ。
普通は捕まる。
そう、普通なら……。

「……本当に見えてない?」

恋人と来ているであろう女性は何事もないように恋人であろう男性と話している。
そして、それに追い打ちをかける様に少女は話し出す。
男はもういいだろうと判断したのか服を着始める。

「見えて声が聞こえる時点であなたは与者です。
 そして、私たちはそれぞれ能力を有しています、行き過ぎた力を。 すみませんがそれは見せられません」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。なんなんだ、僕をどうしたい?」

「あなたのその異能、人の心を聞ける異能を使いすぎたり、持っている日にちが大きくなると私たちと同じ神域に達するということだけを伝えに来ました」

「日にちってどのくらいだ?」

「多くて三週間です」

三週間……。
僕が貰ってもう二週間は過ぎている。
もう僕はこいつらと同じになるのか?

「神域ってなんなんだよ!意味わかんねぇよ……」

一風が吹いた。
思わず髪を押さえつける。
少女は髪を押さえず髪をなびかせ祈るような手をして言う。

「神域、それは神と使徒……、与者だけが達せられる域。つまり、人間という枠組から外れた際の世界です」

使徒……与者……神。
分けが分からない。
何がどうなっているんだ。
こいつら本当に――

「私たちの心は聴けませんよ、その力はあくまでまだ人の領域です、私たちは神域に達してますから」

その通り。
まったく彼女らからは声が聞こえない。
絶対の嘘を取っ払った声が。

「だったら、僕はどうすればいい?!」

「今の世界を捨てて私たちと来るか、今の世界を選ぶか?」

そんなのは決まっている。

「今の世界――」

「本当にいいのですか? 妹さんのこと本当に負担と感じていないのですか?」

香澄を負担と感じている?
そんなわけ……ない……はず。
きっと、うん。
あれ、でも。
僕の気持ちてなんだっけ?
わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない。
わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない。

「……」

「ならばこちらへ来るべきでは?」

俺は思い出した。
机の、ノートの、小説の、知らない人の言葉を。

「いや、それはやっぱりできないよ」

「なぜです?」

「――――」



あれから彼女たちとは別れた。
少女の名前はミリア。
男はヨシザキ。

僕は神域に行きたくないと言ったら彼女らはすぐにこの病気染みた異能を消す方法を教えてくれた。
この異能はそもそも、トラウマ、コンプレックス、ここの弱さの部分が生み出した異能。
ならば、それを解消しようとなる。
結果から言うと治すのは無理だ。

だって、僕の場合は人を信じたいという気持ちから生まれた。
なら、人を信じようとなるだろうけど人には深層心理があっていつかの屋上の彼女の様に死にたくて『本当は死にたくない』ていう気持ちが出ている場合が多い。
僕も同じだ。
表面上信じてもそれは無理だ。
ならば、どうすればいいのだ。
僕はもう妹にも小説の子にも……認識されない時が来るのだろうか……。

そう思うと小説を完成させないと思い僕はいつの間にか学校に来ていた。
階段を上る。
なぜか目に涙が出てきた。
本当は誰かを信じたい。
信じたいよ。
なんで、なんでなんだよ。
父さんも母さんも。
僕を、僕をさ、置いて行ったんだよ。
胸が痛くなる。
痛いよ、痛い。
会えなくのが辛い。
小説をかけなく辛い。
感想を見れなくて辛い。

神様がくれた異能?
ありがた迷惑だよ、こんなの。
こんな力がなかったら、なかったら……僕は誰かを信じていたか?
いや、それはない。僕はどのみち誰も信じちゃいなかった。
この異能を持って僕は色々なことを知った。
優しい子もムカつくことがあると。
真面目な子も犯罪をすること。
色々なことを知りすぎた。

だから、せめて僕が居なくなってもあの物語は完成させなきゃな。

そう思って教室のドアに手をかけ思いっきり開く。
それと同時に可愛い声が響き渡る。

「きゃっ!」

見たことがない子だな。
そこには女の子が居た。
ネクタイを見ると同級生だろうか。
何より気になってたのは僕の席でノートを開いていたことだ。
席に近づくと僕は全てを理解し始めた。


「それは……僕の小説。 もしかしていつも感想くれているのは君なのか?」

「……うん」

「そうか。 その話面白いかな?」

「すっごく面白いよ」

「続き書くの?」

……。

一瞬の静寂。

「その話の続きは無い……んだ」

俺は書くというのが急に怖くなった。
本当に書き上げたらその物語も俺も終わってしまうのかと思えたから。

「もう書けないんだ……、もう……、ダメなんだ……」

「……どこか転校するの?」

「遠いところだよ、誰も手が届かない」

「私、この小説読んで色々変わったの
 最初は面白半分で読んでた。でも、あなたの話は時に泣いて笑えるようなお話だった。
 そして、心を決めて感想を書いた。
 拒絶されたらどうしようと思った。
 けど、あなたは暖かく迎え入れてくれた。私のために、他の人のために書いてくれた」

「……っ!」

「だから、例えここで物語が終わっても言わせてください」
「ありがとう」

あぁ、思い出した。
この子はバスでおばぁちゃんに席を譲った人だ。
なんて、綺麗で透き通っていると思った。
辺りはとっくに暗くなっていて教室も暗くなっていた。

気づいたら俺は涙を流し地に伏せかっこ悪く大声を上げていた。
彼女はそんな俺を気持ち悪がらず深く聞かず抱き着いて優しく髪を撫でてくれた。
彼女の優しさと綺麗さが救ってくれたのか。
俺の体から綺麗な光の粒子が出始めて二人をベールの様に包む。

 

 

 


そして、俺は人の心が分からなくなった。

 

あれから数日。

今朝のことなんだが。
僕はいつものように通学しようとバスに乗った。
そのバスは至って普通で乗車人数も30人前後だと思う。
僕が乗った時には座席は埋まりしぶしぶ僕は立っていた。
そこまでは特に何もない。
話はここからで、そこに60過ぎのおばあさんが乗ってきたんだ。
ここで正しい行動は小学生でも知っていると思うが当然席を譲るだ。
けれど、意外と席を譲るという行為は歳を重ねるだけ難しくなる。
それは怠惰なのか、羞恥心なのか、無関心、はたまた利己主義なのかは普通は分からない。
今の僕にはもう分からない。
隣のサラリーマンはムカついてたかもしれないし、僕と同じ学校の名前も知らない先輩は寝ているふりかもしれない。
その時――

「あの、よろしければどうぞ」

「え、いやぁ、悪いですよぉ」

隣のサラリーマンが席を譲っていた。
彼はどう思ったのだろうか、席を譲ってうざい死ね老害とでも思ったかのだろうか。
きっと、そんなことはない。
なんで分かるかと言われると『なんとなく』だ。
僕にはもう異能がないけど人の心が前より分かった気がする。
人は醜いからこそその姿を隠し生活しよく見せる。それでいいじゃないか。

ホームルーム前教室。
今日もざわざわと盛り上がっていた。うるさいほどに。
ついでに言うと部体育会系の部活は今日も熾烈を極めていて一年生は叱られていた。
机の中のノートはもう開かない。
もう物語は完結した。
まぎれもないハッピーエンドだ。
勇者が魔王を倒して世界は平和みたいな誰もが思い描くハッピーエンドだ。
だから、もうあの続きは書いていない。

「おーい、坂田。今日放課後遊ばないか?」

中田だ。
俺の友達の中田だ。

「……おごらないぞ?」

「ばっか!今日は俺がおごってやるからさ」

驚いた。
こういう日もあるのか。
その時ポケットから振動が伝わってきた。
携帯だ。
中田とテキトーに放課後の話をしながら携帯を見る。
思わず頬が緩くなる。

「ごめん、僕行くね」

「え、ちょ、おい、もうホームルーム始まるぞ」

中田の制止を振り切って俺は走る。上る。
走って、上った。
ただひたすらに。
屋上の壊れた南京錠がついたドアを思いっきり開く。

一風が吹いた。
俺の背を押すように。
そこには俺の彼女が、彼女になってくれた人が居た。

太陽に反射して彼女の胸元が青く光ってまぶしく感じる。
香澄にあげた同じデザインのネックレスだ。


世の中の童話には「幸福な王子」というのがある。
それは人々の象徴である金箔でできていた。
しかし、王子は知っていた。
ここには幸せの反面である不幸せがあると。
それがどうしても許せんかった。
いや、きっと見ていられなかったのだけかもしれない。
だから、王子は友達であるツバメに頼んだ。
あそこでお金を落としている子に私の金箔を。
あそこで泣いてる子にルビーでできている右目を。
あそこでお金がないために蔑まれている子にはサファイアでできた爪を。
そんなことを王子は続けた。
それと比例して人々からは注目されなくなり遂には廃棄を余儀なくされた。
それでも王子は人を決して恨まなかった。
そして、ツバメに最後のお願いをした。

あなただけは生きなさいと。

俺が世界で一番好きな話だ。
他者への無償の愛を貫いた自己犠牲の末の死。
世界で一番きれいな心だ。
俺もそうなりたいと思った。

ツバメがあげたサファイアより彼女の胸元のネックレスは輝いていると思う。
そしてその色はあるものと酷似していた。

「……今日も空は青いな」


END